
10月に入り、台湾をめぐる諸情勢が再びキナ臭くなってきた。
台湾国防部によれば、10月の最初の5日間で延べ約150機の中国軍機が台湾の防空識別圏に進入した。6日、台湾国防部長は「中国は2025年までに完全な台湾侵攻能力を持つ」と立法院で証言した。8日付の米ウォール・ストリート・ジャーナルは「米軍の特殊作戦部隊と海兵隊の小部隊が極秘に台湾に派遣され、少なくとも1年前から台湾軍の訓練に当たっている」と報じた。
9日、中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席が辛亥革命110周年記念演説を、翌10日には台湾の蔡英文(ツァイ・インウェン)総統が双十節110周年記念演説をそれぞれ行った。双方とも従来の主張を繰り返すばかりで、中台間の深い溝は埋まりそうにない。さらに、14~15日、米軍の駆逐艦とカナダ軍のフリゲート艦が共同で台湾海峡を通過した、とロイター通信が報じている。今、米中台の間で一体何が起きているのだろうか。
米国で活動する、ある中国専門家は台湾をめぐる米中の緊張が「今ほど高まった時期はなく、その深刻さは1996年の台湾危機以上かもしれない」と述べた。だが、筆者はこうした見方に必ずしも賛同しない。むしろ気になるのは、東アジアではなく、ワシントンでの議論だ。総選挙の報道に一喜一憂する日本ではあまり注目されていないが、今、日本の安全保障に大きな影響を及ぼしかねない議論が米国の首都で始まった。これが現在の筆者の見立てである。
超党派で増殖! 「曖昧戦略」の見直し議論
10月11日付米ワシントン・ポストがオピニオン欄に「米議会は台湾に関しバイデンの制約を解くべし」と題する興味深い小論を掲載した。著者はイレイン・ルーリア元米海軍中佐。彼女は現在、バージニア州選出の下院議員(民主党)を務めている。
同議員の主張は明解だ。
- 米国には現在、中国を抑止する戦力も、それを使用する大統領の法的権限も存在しない
- 現行の戦争権限法と台湾関係法は大統領に台湾を防衛する権限を与えていない
- 大統領は中国による台湾侵攻を撃退し、全面戦争を抑止するため、迅速に対応する権限を持たない
- 共和党議員が提出した「台湾侵攻回避法案」により、台湾を防衛する権限を大統領に与えるべきである
- 同法案は、大統領に台湾介入を義務付けるものでも、「一つの中国」政策を変えるものでもない
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