ロシアと欧州をつなぐパイプライン「ノルドストリーム1」と「同2」がともに損傷した(写真:AFP/アフロ)
ロシアと欧州をつなぐパイプライン「ノルドストリーム1」と「同2」がともに損傷した(写真:AFP/アフロ)

ロシアから西欧へ天然ガスを輸送する海底パイプラインが今年9月に爆破された。NATO(北大西洋条約機構)加盟国は、エネルギーなどのインフラが将来、ロシアによる破壊工作の標的になる危険があるとして、警戒を強めている。

 デンマーク政府によると、9月26日午前2時3分、同国のボーンホルム島の南東12カイリの海底で爆発が起きた。その後も同日に2回、29日に1回の爆発が観測された。4回の爆発はいずれもガスパイプライン「ノルドストリーム1(NS1)」と「ノルドストリーム2(NS2)」に沿った、水深約70メートルの海底で起きており、ガスが海面に漏出しているのが確認された。爆発のうち2回はデンマークの排他的経済水域(EEZ)内、2回はスウェーデンのEEZ内で発生した。

 爆発が起きたとき、2本のパイプラインは稼働していなかった。NS1については、ロシアの国営企業ガスプロムが8月31日以来、「技術的トラブル」を理由に西欧へのガス輸送を停止していた。NS2については、ドイツ政府が2月22日、稼働許可申請の審査作業を凍結していた。ロシアがウクライナ東部のドネツクとルガンスクの両人民共和国の独立を承認したことへの抗議である。しかし2本のパイプラインにはすでにガスが充填されていたため、海面にガスが漏れた。

 ガスの漏出は現在止まっているため、スウェーデン、デンマーク、ドイツの軍、検察当局や警察が捜査を進めている。ドイツが捜査に加わっているのは、NS1および同2が陸地に上がる場所がドイツ領だからだ。

 NS1と同2はそれぞれ2本ずつ導管を持っている。ドイツ連邦軍と警察が、遠隔操作できる水中ドローンを使って10月中旬に撮影した写真によると、合計4本の導管のうち3本が損傷を受けており、ある箇所では長さ8メートルの亀裂があった。このためドイツの検察当局は、「爆薬を使った破壊工作」とみている。

 爆発が起きたとき、NS1、同2ともにガス輸送に使われていなかったため、ドイツなど西欧諸国へのガス供給に支障は出ていない。ドイツは産業界を中心にガス消費量を減らしている他、ノルウェーがドイツ向けガス供給量を例年より10%増やしているからだ。

 ガスパイプラインには損傷箇所から海水が流れ込んだため、今後、導管の内側で侵食が進む。将来、修理することは不可能ではないものの、多額の費用がかかるのは間違いない。

NATOはロシアに警告

 欧米諸国の最大の関心は、誰が破壊工作を実施したか、である。可能性としては、(1)個人、(2)テロ組織、(3)国家が考えられる。だが民間人や、アルカイダのようなテロ組織が、ダイバーや潜航艇を使って、水深70メートルの海底に敷設されているパイプラインを爆破するのは困難だ。

 このため、国家が軍の潜航艇や水中ドローンなどを使って攻撃したとみるのが、自然だ。すでにスウェーデン政府は、「国家が加わっている可能性が高い」という見方を明らかにしている。

 欧米諸国は現在、海底で爆破されたパイプラインの破片を探して、そこに付着している爆薬を鑑定し、どの国の爆薬が使われたかを突き止めようとしているようだ。特定の国による犯行を示す物証は見つかっておらず、今のところ欧米諸国は、誰が破壊工作を実施したか直接には名指ししていない。

 だがNATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長は10月11日、「NATO加盟国が運用する重要なインフラが攻撃された場合、我々は強力に反撃する」という声明を発表した。同氏は名指ししていないものの、ロシアに警告を発しているのは明らかだ。さらに同氏は「NATOは重要なインフラに対する警戒活動を強化するとともに、これらの施設の安全を確保するべく情報収集に努めている」と語った。

 同氏が言う重要なインフラは、電力、ガス、原油などのエネルギー源を送るパイプラインや送電線、発電所、変電所、さらに通信回線のための海底ケーブルなどを指す。スペインの保険会社マプフレの報告書によると、世界中には378本の海底通信ケーブルが敷設されており、全長は120万キロに及ぶ。万が一こうした海底通信回線が破壊された場合、世界経済への影響は甚大なものになる。

 NATO加盟国はNS1と同2に対する破壊工作が起きて以来、バルト海と北海での哨戒活動に当たる艦艇の数を通常の2倍である30隻に増やした。潜水艦や対潜哨戒機による警戒活動を強化している。これまで海底パイプラインの安全確保は運営企業に任せてきたが、今後はNATOが監視を強める。こうした警戒活動の強化は、NS1および同2に対する破壊行為をNATOがロシアの仕業と考えていることの表れである。

 一方ロシアは、欧米を犯人として名指ししている。ウラジーミル・プーチン大統領は10月12日にモスクワで開かれたエネルギー関連会議の席上で、「米国、ポーランド、ウクライナがNS1と同2を破壊した。ロシアから西欧へのガス輸送を妨害することで、米国からの液化天然ガス(LNG)の輸入を増やすためだ」と発言した。同大統領は「我々はエネルギー・インフラへの破壊工作を許さない」と強調。ロシアはスウェーデンとデンマークの両国政府に対してNS1と同2の爆破に関する調査活動に参加させてほしいと要請したが、両国は拒否している。

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