新井:トルコが米国を見限ってロシアにつくことは考えられません。米国による“干渉”が強いので、自立性を高めたい。そのためのテコとしてロシアとの関係を使っているのだと思います。

米国はトルコにどのような干渉をしてきたのですか。

新井:例えば1980年代にトルコ軍がクーデターを起こした際、軍は米国から了承を取ってから行動を起こしたと言われています。その後も有望な政治家が首相に就任する前には必ず米国詣でする慣習があると言われています。

米国が核兵器を配備していることも、トルコが米国に反感を抱く理由ですか。

新井:いえ、逆にトルコは核配備を歓迎しています。もともと米国が対ソ戦略の一環としてトルコに配備したものでした。しかし、冷戦後も残すようトルコが望んだのです。トルコは米国の核兵器の存在が自国の安全に役立つと考えているのです。

 一方、ロシアに対して、トルコは歴史的に不信感を抱いています。それぞれの前身である帝政ロシアとオスマン帝国は、ロシアの南下政策を受け、幾度も戦争しています。クリミア戦争や露土戦争は有名ですよね。このため、トルコは今でもロシアを警戒しています。

 それに、頼る相手としてロシアは十分な力を持っていません。今はウラジーミル・プーチン大統領が政権を掌握しているので強く見えますが、経済はぜい弱だし、中東の安定を保持するノウハウも持っていません。トルコが最も望んでいるのはこの地域の安定です。

米国の同盟国との関係は微妙

トルコによる今回のクルド攻撃や、それにシリアやロシアが関与することが、中東の他の国とのパワーバランスに影響を及ぼすことはありますか。サウジアラビア、イラン、イスラエル--。

新井:トルコと他の国との関係に大きな変化はないと思います。この地域の現在の情勢で興味深いのは、NATOの加盟国であるトルコと、その周囲に位置する米国の同盟国との関係が良くないことです。

 トルコとサウジアラビアの関係はあまり良くありません。原因はカタールです。トルコとカタールは以前から良好な関係にあります。しかし、サウジは2017年、カタールがイランとの関係を強化していることや、イスラム過激派を支援していることを理由に断交に踏み切りました。サウジアラビアのジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏殺害事件でも、トルコはサウジアラビアを厳しく批判してます。

 トルコとイスラエルの関係も、トルコでエルドアン政権が誕生して以降、芳しくありません。同政権はイスラム色を強めており、それゆえ、パレスチナを支持し続けています。他のアラブ諸国がパレスチナをほったらかしている中でトルコだけが。このため、オバマ政権時代に、パレスチナへの支援物資を運ぶトルコの船舶をイスラエルが攻撃したことがありました。

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