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米国で活躍する著名な中国問題専門家らの意見を紹介する。焦点の1つは台湾だ。トランプ大統領再選の場合はもちろん、次期大統領が誰になろうとも、このままの状況が続けば、台湾問題が今以上に大きな米中対立の争点になり得る。ジョー・バイデン前副大統領が勝利した場合に、対中政策が変更される可能性がある。キーワードは「客観的事実を踏まえた現実路線」だ。(聞き手:森 永輔)

(写真:AFP/アフロ)

米大統領選の投票日まで3週間を切りました。

瀬口:このタイミングで、米国で活躍する著名な中国問題専門家らの意見を聞くことができました。2つの大きな傾向が分かったので、お話しします。1つは、トランプ大統領再選の場合はもちろん、次期大統領が誰になろうとも、このままの状況が続けば、台湾問題が今以上に大きな米中対立の争点になり得ること。もう1つは、ジョー・バイデン前副大統領が勝利した場合に、対中政策が客観的事実を踏まえた現実路線へと変更される可能性です。

瀬口 清之(せぐち・きよゆき)
キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 1982年東京大学経済学部を卒業した後、日本銀行に入行。政策委員会室企画役、米国ランド研究所への派遣を経て、2006年北京事務所長に。2008年に国際局企画役に就任。2009年から現職。(写真:丸毛透)

 まず、現在の米国の世論についてお話ししましょう。ホワイトハウスはもちろん、議会も反中一色に染まっています。さらに、メディアも一般世論も政治に影響され、全米が反中になっていると言っても過言ではありません。中国に対する見方を尋ねた世論調査の動向(ピュー・リサーチ・センター調べ)を追うと、2020年は「反中」の回答が73%に上りました。この値は、2010年には36%、2015年には54%で、高まる一方です(調査実施時期は20年が6~7月、10年および15年は春)。

 米民主党のジョー・バイデン前副大統領も中国に対する姿勢を強めています。世論が反中になっているので、選挙戦術上、トランプ大統領と同じように厳しい姿勢を打ち出す必要があるためとみられます。

台湾が焦点に

トランプ大統領が再選した場合、今の反中姿勢が続くのでしょうか。

瀬口:そう見ています。中でも懸念されるのが台湾問題です。これは、米中関係はもちろん、国際社会の将来に禍根を残しかねません。

 トランプ政権は既に5月、総額で1億8000万ドルほどの台湾向け武器輸出を承認しています。

米ロッキード・マーチン製のロケット発射装置や米ボーイング製の空対地ミサイルなどが対象ですね。

瀬口:8月には、アザー厚生長官に台湾を訪問させました。1979年に米台が断交して以降、台湾を訪問する最高位の米高官となったことが注目されました。

 議会も同様で、下院が3月に台北法案を可決しました。この法律の柱は3つあります。第1は、台湾と諸外国との関係強化を支援すること。台湾との関係を強化する国に対する米国の関与を強める一方で、台湾の安全保障に脅威をもたらす国と米国との外交関係を見直す。こうすることで、台湾支援の効果を担保します。

 第2は、台湾が国際機関に加盟・参加するのを支援すること。新型コロナウイルスの感染拡大に臨んで台湾が非常に効果的な対応をしました。しかし、中国が反対し、台湾の経験をWHO(世界保健機関)の場で共有することができなかったのは記憶に新しいところです。そして第3は、米国と台湾との経済関係強化です。

 驚くべきことに、下院の本会議はこの法案を全会一致で可決しました。上院は既に昨年5月に可決していたので、トランプ大統領が署名して成立しました。

 これまでの米政権が抑制していた政策をトランプ政権は一気に進めたわけです。