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「統治」に関心の低い大統領を相手に行う貿易交渉ほど難しい交渉は他にない(写真:AFP/アフロ)

 日米貿易交渉、「相打ち」・「ドロー」の結果は決して悪くない。

 9月25日、米ニューヨークでの日米首脳会談が終わった。2020年の大統領選しか眼中にないドナルド・トランプ大統領は「米国の農家にとって巨大な勝利だ」と自画自賛、安倍晋三首相も「両国にとってウィンウィンの合意」と応じた。たまたま当日は米下院が大統領弾劾調査を正式に開始したこともあり、当然ながら、米国メディアは会談結果を大きく報じていない。他方、今回の首脳会談に関する日本メディアの評価は大きく割れているようだ。

 一部本邦メディアはイランや朝鮮半島など貿易以外の分野でも「相当突っ込んだ議論」が行われたなどと好意的に報じた。その一方で、ある有力紙は「日本は牛肉など米国産農産物への関税を環太平洋経済連携協定(TPP)の水準に引き下げる一方、米側が乗用車や自動車部品に課す関税の削減は先送りした。米政権が検討中の日本車への追加関税を発動しないとの『言質』も、従来と同じレベルにとどまった」などと批判的に報じている。

 この種の首脳会談では外交的成否がよく議論されるのだが、正直なところこれまで、説得力のある論評は少ない。そもそも外交には、①急変する国際情勢に対応する戦略観があるか否か、②国際政治・経済・軍事上の国益を最大化できるか否か、③逆に、国内政治上の一手段として、権力者が権力基盤を維持できるか否か、という3つの側面がある。これらのうちどれを重視するかによって外交的評価は大きく変わるからだ。

永遠に続くリーグ戦で「ドロー」は成功の部類

 結論から言えば、予想通り、今回の交渉結果は良い意味で「相打ち」「ドロー(引き分け)」だった。当然だろう。そもそも一度同意したTPPから一方的に離脱したのは米国ではないか。その不利益を挽回すべく自動車を含む様々な「一方的関税」でけんかを売ってきたのも米国だ。しかも、トランプ大統領の関心は大半が選挙「キャンペーン」である。およそ「統治」に関心の低い大統領を相手に行う貿易交渉ほど難しい交渉は他にないだろう。

 一部の識者は、今回の交渉は日本が「失うことばかり」であり、「米国への譲歩が目立つ」などと論評しているが、これは外交、特に貿易交渉の実態を知らない学者の戯言(たわごと)だ。貿易交渉は「甲子園の高校野球」ではない。それは国際貿易が続く限り永遠に続くリーグ戦であり、そこには短期的勝者も敗者もない。全ての交渉結果は勝利と敗北の混合物。そのような交渉の結果が「相打ち」「ドロー」であれば、内容的には成功の部類である。

 前回のコラムでも書いた通り、世界は新たな「不確実性の時代」に入りつつある。主要国の政治家が「勢いと偶然と判断ミス」による政治決断を繰り返す限り、個々の政治家の過ちをとがめたところで状況は元に戻らない。されば、今後日本は、いかなる変化にも耐え得る、「直観的でなく熟慮と正確な判断」に基づいた政策の立案・実施のための新たな意思決定プロセスを作り上げる必要がある。この点は貿易政策も同様だろう。