投票率を上げる絶好のチャンス

3)後任判事人事で投票率は上昇する?
 日本のメディアではおおむね次の通り報じられている。世論調査で劣勢が伝えられる共和党トランプ陣営としては、ギンズバーグ氏の後任に保守派判事を指名することで、その支持基盤である保守派有権者の求心力向上が期待できる。一方、世論調査で優位に立つバイデン氏陣営は、後任の保守系判事指名に強く反対することで、リベラル派のさらなる結束を目指す。もちろん、こうした分析は極めてまっとうなものだ。

 そもそも、米大統領選の有権者の9割は既に投票態度を決めており、毎回投票態度を変える、いわゆる「無党派層(swing voters)」は1割程度だそうだ。逆に言えば、大統領選挙に勝つためには、各選挙区、特に激戦州といわれる重要州で、無党派票を増やすとともに、自己を支持する層の実際の投票率を上げる必要がある。その意味で後任判事問題は民主党と共和党のどちらにとっても投票率を上げる絶好のチャンスである。

4)共和党にとっては僥倖
 共和党の悪夢は今回の大統領選がドナルド・トランプ氏の信任投票になることだ。世論調査の結果が劣勢となっている最大の理由は新型コロナ危機対策の失敗と人種差別問題や経済状況の悪化である。イスラエルと一部湾岸アラブ諸国との国交正常化を取り持つなどして岩盤支持層であるキリスト教福音派などへのアピールを続けてきたが、これといった決定打にはならなかった。その意味で投票日45日前のギンズバーグ氏の死去は、失礼ながら、トランプ政権にとって絶好の機会だ。

 今回、トランプ政権になって3人目の保守派判事を送り込めば、最高裁の構成は保守派6人対リベラル派3人となり、共和党にとって圧倒的に有利となる。トランプ候補が約束してきた「米最高裁の保守化」が完全かつ今後長期にわたって実現するからだ。これまでトランプ氏の言動に不信を抱いてきた一部のトランプ支持者たちも、これなら投票所に足を向けるだろう。これが共和党にとって僥倖(ぎょうこう)でなくて何だろうか。

5)民主党にとっては試練
 対する民主党も黙ってはいない。ギンズバーグ氏が死去した後、バイデン候補への献金額は急増した。民主党内のリベラル派はトランプ政権の動きに猛反発しており、既にバイデン氏と、カマラ・ハリス副大統領候補、ナンシー・ペロシ下院議長などは早期の議会承認に反対を表明している。その意味では、民主党側にとっても既存の支持層の投票率を上げるチャンスであることに変わりはない。問題はどちらの側がより高い投票率を獲得できるかだ。

 既にリベラル過激派の一部は「ギンズバーグ氏の後任決定を急ぐなら、全てをぶっ壊してやる」「(共和党マコーネル上院院内総務の発言は)F_ _kノーだ、全てを焼き滅ぼしてやる」などとツイートし始めた。これを保守系メディアは大きく取り上げ、「左派は暴力に訴える」と報じて保守層の危機感をあおっている。リベラル系のワシントン・ポストですら、「トランプに不満だったトランプ支持者」の「トランプ陣営返り」の可能性を予測する。

6)問題の本質はオバマケア、人工中絶、移民規制?
 問題は、リベラルの女性最高裁判事の死去により、最高裁の保守化が決定的になることだけではない。より本質的なことは、

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