
9月18日、ルース・ベイダー・ギンズバーグ(RBG)米最高裁判所判事が亡くなった。史上2人目の女性最高裁判事で、多くの米国民に慕われた司法界リベラル派の英雄の一人だ。彼女は長年ガンを患いその健康が懸念されていた。
彼女の死に米民主党系のある友人がひどく落胆していた。「昨日まで大統領選は民主党に有利だと思っていたが、今日で選挙の様相は一変した。2週間早い『オクトーバー・サプライズ』になりそうだ」と言う。彼との付き合いはもう40年。伊達(だて)や酔狂でこんなことを言う男ではない。
一方、日本のマスコミのギンズバーグ氏逝去の扱いは「通り一遍」のものだった。同氏の後任人事は「11月の米大統領選挙に向けて重要な争点に浮上」、大統領選投票態度に関する世論調査で「最高裁判事指名が『とても重要』との回答は64%にのぼった。経済や医療に続いて3番目に多い」などと報じている。うーん、間違いではないのだが、ちょっと違うなあ。
ギンズバーグ氏の死去は大統領選挙の投票日の45日前。政治的にみてこれ以上「絶妙」のタイミングはない。米マスコミは早速、後任人事を急ぐトランプ政権、共和党多数の上院での承認、投票日前の承認に反対する民主党の動きなどを追い始めた。されば「プロの目」を自任する本稿では、なぜギンズバーグ氏の死が大統領選挙の結果を左右するのか、なぜ民主党関係者が懸念を深めているのか、最終的な選挙結果はどうなるのか、に関する見立てを書こう。
1)トランプ大統領はギンズバーグ氏の後任に保守系女性を指名する?
ギンズバーグ氏が亡くなるまで、9人の米最高裁判事は保守系5人、リベラル系4人であり、保守系の最高裁長官が両派のバランスを取りながら、最高裁の権威と信頼を維持してきたといわれる。トランプ政権は「米最高裁の保守化」を公約に掲げ、既に2人の保守系判事を送り込んできたが、これまで保守・リベラルのバランス自体は変わらなかった。今回トランプ氏はギンズバーグ氏の後任に保守系女性を指名する可能性が高いだろう。
大統領は既に公言している。日本の一部報道では「女性票狙い」との分析もあるが、フェミニスト・リベラルのパイオニアであるギンズバーグ氏の後任に男性を指名すること自体、今の米国では政治的自殺行為だ。女性判事を後任に指名するのが当然ならば、それでトランプ氏に大量の女性票が流れるとは到底思えない。既に候補の女性は数人に絞られており、今週中にも発表される可能性が高い。ここまでは誰でも考えつくことだ。
2)上院は大統領選の投票日前に承認しない?
次の問題は、共和党が多数を占める上院が後任人事を投票日前に承認するか否かだ。民主党側は大統領選直前に最高裁判事承認手続きを踏むことに強く反対している。4年前、上院共和党のミッチ・マコーネル院内総務は投票日の9カ月前に死亡した最高裁判事に対するオバマ政権(当時)の後任案を葬った経緯がある。ところが今回、同院内総務は「トランプ氏が指名した判事候補を上院本会議で採決する」と明言した。
「余りに偽善的」との批判も少なくないが、共和党上院議員の大半は意に介さない。
ただし、選挙区の事情などから投票日前の承認に反対する共和党上院議員も少なくなく、状況は予断を許さない。共和党で選挙に携わる関係者の中には、「承認を急ぐ必要はない。大統領は後任判事候補を指名し、民主党のジョー・バイデン候補にも後任候補を発表させ、議論を深めればよい」とする向きもある。理由は次の通りだ。
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