「共同富裕」の狙いは中国共産党の「統治の正統性」回復

 「共同富裕」という概念自体は決して新しいものではない。毛沢東が「共同富裕」を提唱したのは、中華人民共和国建国直後の1953年だった。ちまたには、この概念を、鄧小平が唱えた「先富論」と相対立するものと見る向きもあるが、それは必ずしも正しくない。確かに鄧小平は「先富論」により、一部の集団がまず豊かになる中国経済発展の必要性を説いてはいたものの、同時に「共同富裕」は常に究極的な目標と考えていたようだ。

 いずれにせよ、この「共同富裕」なる概念に新たな命を吹き込んだのは習近平氏である。「社会主義市場経済」という虚構の下で、実際には新自由主義的経済発展を進めてきた中国は、案の定、都市と農村、沿海部と内陸部などの間で経済格差が深刻化した。その対策として習近平氏が2021年8月17日の中央財経委員会第10回会議で発表したのが、中国の深刻な経済格差の是正を目指す「共同富裕」政策である。

 それでは同会議での彼の演説内容を振り返ってみよう。「共同富裕」について習近平氏はおおむね7つのことを述べている。ここではポイントになる2点を詳述する。なお、以下の見出しは新華社報道の原文にはなく、あくまで筆者の翻訳に基づく便宜上のものであることをあらかじめお断りしておく。

  1. 全国民の生活保障
  2. 格差是正のため3分野を通じた再分配の促進
    「質の高い発展で共同富裕を促進し、効率性と公平性の関係を正しく処理し、第1次分配、再分配、第3次分配が協調的かつ補完的に行われる基本的な制度配置を構築し、課税、社会保障、移転支出の規制の強度を高め、精度を向上させ、中間所得層の割合を拡大し、低所得層の所得を増加させ、高所得を合理的に規制し、非合法化する必要がある」
  3. バランスのとれた地域開発と中小企業の育成
  4. 年金・医療など公共サービスの平等化
  5. 不合理な所得の清算と所得分配の秩序是正
    「高額所得者の規制と調整を強化し、法律に基づいて正当な所得を保護し、過剰な所得を合理的に調整し、高額所得者や企業に社会への還元を促すべきである。不合理な所得を一掃して規制し、所得分配の秩序を正し、違法な所得を断固として排除しなければならない」
  6. 財産権と知的財産の保護
  7. 農村の生活環境の改善

 要するに、高所得者を標的に、あらゆる手段を使ってでも格差を是正し、中国共産党の「統治の正統性」を回復したいのだろう。中でも驚いたのは上記2)と5)。特に、第3次分配、すなわち「大企業による寄付」を通じた所得の再分配に言及した部分である。だからこそ、大手企業は寄付行為に走り、有名芸能人が脱税容疑で検挙されるのだろう。

 それにしてもこの内容、読めば読むほど社会主義、共産主義の基本に戻りつつある気がしてならない。今時こんな荒っぽいやり方が中国では可能なのだろうか。他人事ながら、心配になるほどだ。

毛沢東にあって習近平にないもの

 ちまたでは、習近平氏が発表した「共同富裕」政策は、「毛沢東が発動してその絶対的権威の確立につながった文化大革命の再来」とする向きもあるらしいが、果たしてそうだろうか。

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