中国政府は恒大問題をどう処理するのか(写真:ZUMA Press/アフロ)
中国政府は恒大問題をどう処理するのか(写真:ZUMA Press/アフロ)

 中国の不動産バブルはついにはじけるのだろうか。日本のメディアが自民党総裁選の報道に没頭し始めた先週、巨額の負債を抱える中国の不動産開発大手「中国恒大集団(China Evergrande Group)」の経営危機の噂が市場を駆け巡った。筆者の手元にあるデータによれば、負債総額は2720億ドル、自己資本は960億ドルで、債務超過は170億ドル。すなわち、負債総額30兆円、債務超過2兆円弱という大型破綻になる可能性があるらしい。

 投資家や金融業界にとって重大ニュースだろうが、日本の一般庶民の関心は別にあるようだ。

 中国では最近、有名芸能人の摘発やIT(情報技術)企業や学習塾への締め付けなど富裕層を狙ったとみられる当局の動きが目立つという。複数の中国大手IT企業が突然、各種の慈善事業に巨額の寄付を始めた。有名映画スターの名が動画配信サイトから次々と削除され、人気俳優がドラマ出演料の脱税容疑で巨額の罰金支払いを命じられた。いずれも習近平(シー・ジンピン)国家主席が進める「共同富裕(ともに豊かになる)」と呼ばれる新政策の結果だとちまたでは噂されている。

 一方は「恒大集団」の危機という経済現象、もう一方はIT長者や芸能人セレブなどのスキャンダルという社会現象。これらは一見、関連のない個別の事件に思えるかもしれない。しかし、筆者はこれらがより巨大な同一現象の一部分にすぎないと考え始めている。今回は、政治と経済が一体化し、純粋な経済活動が存在し得ない不思議な国・中国における「政治的経済現象」の読み方について考えてみたい。

「恒大集団」は救済されるのか

 報道によれば、中国恒大集団が抱える有利子負債残高は2021年6月末時点で約10兆円、純有利子負債が約7兆円あり、社債も合計約2兆円の発行残高がある。中国の金融システム危機や不動産市場の暴落、さらにはリーマン・ショックのような危機の連鎖すら懸念されているという。多くの市場関係者はかなり以前から今回の危機到来を予測していたようだ。

 中国政府が恒大問題をどう処理するか、中国経済専門家の意見は分かれている。市場原理に基づき同社を破綻させるのか。それとも「too big to fail」の恒大集団を経済合理性に基づき公費で救済するのか。しかし、筆者の答えはこのいずれでもない。中国政府が恒大集団を破綻させるにせよ、救済するにせよ、その理由は、市場経済の合理性ではなく、「共同富裕」という新たな概念を踏まえた政治判断だと思うからだ。

 そもそも中国において、経済活動を律する規範とは一体何だろうか。現時点での筆者の仮説は次のとおりである。

  1. 中国では、西側諸国の経済人が考えるような「純粋の経済活動」は経済活動の主流ではない。
  2. 森羅万象が政治的意味を持つ共産党の中国において、全ての経済活動は政治活動となり得る。
  3. 中国における経済活動では、財やサービスに付加価値を付けて売却し、その差額を利潤とする通常の経済行為よりも、「権力を現金化する」という「経済的な政治活動」による利潤獲得の方が尊重される。
  4. このような経済の下では、企業破綻であれ、企業救済であれ、まずは権力者の政治判断が優先される。そうした政治判断による処理が終了した後に、初めて市場経済の経済合理性に基づく判断が選択される。
  5. 政治的コネクションを持たない中国の経済・金融の専門家やエコノミストに、このような政治判断を行う権限は与えられていない。

 以上の仮説が正しければ、日本のビジネスパーソンが中国共産党の要人に「日中関係は政経分離でいきましょう」「政治は政治でやってください。経済は経済で、政治とは別に交流しましょう」などと言うことぐらい的外れなことはない、ということになる。おっと、少し言い過ぎたかもしれない。

 以上を前提に、今度は習近平氏の新政策である「共同富裕」論について考えてみよう。

次ページ 毛沢東にあって習近平にないもの