ロシアから交戦国と見られることへの懸念

 ところがドイツはウクライナの要請を拒否し続けており、戦闘戦車や装甲兵員輸送車をまだ1両もウクライナに供与していない。ドイツのクリスティーネ・ランブレヒト国防大臣は9月15日、ドイツ製小型装甲車ディンゴ50両と、2基の米国製多連装ロケットランチャーMARS、およびMARS用ロケット弾200発をウクライナに供与すると発表した。さらに9月19日にも、「自走重榴弾砲PzH2000をさらに4両ウクライナに送る」と言明した。しかし同大臣は、ウクライナ政府が最も望んでいる、レオパルド戦闘戦車とマルダー装甲兵員輸送車の供与については言及を避けた。

 ウクライナ政府のディミトロ・クレバ外務大臣は、ドイツの有力日刊紙フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)9月17日に掲載したインタビューの中で、「ディンゴは、我々が今一番必要としている車両ではない。我々はレオパルドとマルダーの供与を求めている。ドイツがなぜレオパルとマルダーを送ってくれないのか、私には理解できない」と不満をあらわにしている。

 だが自国製戦闘戦車の対ウクライナ供与を避けている国は、ドイツだけではない。米国、英国、フランスなども1両もウクライナに送っていない。

 その理由は、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の間に「欧米製の戦闘戦車をウクライナに供与しない」という暗黙の了解があるからだ。さらに、製造国を問わず、戦闘機や爆撃機もウクライナには供与しない。今年3月に、ポーランドがロシア製戦闘機ミグ29をウクライナに供与しようとしたことがあったが、米国が待ったをかけた。NATOがこれらの武器を供与しないのは、戦闘戦車や戦闘機は「攻撃用兵器」という性格が強く、ロシアから交戦国とみなされる危険があるからだ。

 仮にウクライナ兵が操縦する米国製エイブラムス戦車がロシア軍のT80型戦車を撃破し、戦車の残骸の横を進撃する映像が流れたとしよう。この場合「米国はウクライナに自国製戦車を送って、間接的にロシアと戦争をしている」という印象が世界中に広がるだろう。

 映像が持つ政治的インパクトは、無視することができないほど大きい。今年11月8日に中間選挙を控えている米国のジョー・バイデン大統領は、選挙前に「民主党政権はロシアとの間で間接的に戦闘状態に入った」という印象を有権者に与えることは避けようとするに違いない。

 一方ロシア国内では、欧米諸国に対する憎しみが強まる。プーチン大統領は「欧米は自国製の戦車をウクライナに送って、我が国への敵対的な姿勢を強めている」と判断して、ウクライナで戦術核兵器や化学兵器を使ったり、バルト3国やポーランドを攻撃したりするかもしれない。

 NATO加盟国が絶対に避けようとしているのは、事態がエスカレートして「欧州大戦」や「第3次世界大戦」に発展することだ。自国製戦闘戦車をウクライナに供与すれば、欧州大戦への第一歩となるかもしれない。ロシア軍が支配しているザポロジエ原発で、原子炉の冷却水を遮断して炉心溶融事故を起こす可能性もある。

 NATOは「欧米製の戦闘戦車をウクライナに供与しない」という取り決めについて、公式には発表していない。米国も表向きは「ウクライナに何を供与するかは、各国政府が独自に決めることだ」という姿勢を取っている。しかし各国が足並みを揃えて西側製の戦闘戦車の供与を拒否している状況や、ドイツのオラフ・ショルツ首相が「我が国はウクライナへの武器供与で独り歩きはしない。同盟国と緊密に打ち合わせて決める」と語っていることから、この原則が存在することは明白だ。同首相は「核保有国ロシアとの直接の交戦を絶対に避けることを、首相としての私の重要な任務と考えている」と述べたことがある。

ロシア製戦車の供与はOK

 ただし、ドイツなどNATO加盟国は、ロシアがウクライナを完全に制圧する事態も避けなくてはならない。プーチン大統領、またはその後継者が、ウクライナ制圧に成功した場合、次の矛先を、かつてソ連の支配下にあったバルト3国やポーランドなどに向けないという保証はないからだ。プーチン大統領は「ソ連の崩壊は、20世紀最大の破局だった」と言ったことがあり、「かつての東側陣営」を勢力圏に取り戻したいと考えているのは間違いない。

 NATOは妥協策として、加盟国がロシア(またはソ連)製の戦闘戦車をウクライナに供与することは認めている。例えばポーランドとチェコは、2月24日以降、ロシア(ソ連)製のT72型戦闘戦車を合わせて約270両ウクライナに供与している。

第2次世界大戦中、ソ連は大量のT34型戦車を投入して、ナチスドイツ軍を自国領土から撃退した(写真はポーランド軍がソ連から供与されたT34/76型戦車、筆者撮影)
第2次世界大戦中、ソ連は大量のT34型戦車を投入して、ナチスドイツ軍を自国領土から撃退した(写真はポーランド軍がソ連から供与されたT34/76型戦車、筆者撮影)

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