
8月29日、訪中したフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領が中国の習近平(シー・ジンピン)国家主席と会談した。2016年の大統領就任以来、今回が5度目の訪中となる。ベニグノ・アキノ前大統領は、政権を担った2010年から2016年までの間に2度訪中したにすぎず、ドゥテルテ大統領の中国重視は際立っている。
今回、ドゥテルテ大統領は事前に「仲裁裁判の結果を習近平主席との会談で取り上げる」としており、一部の注目が集まった。結果からみれば、大方の予想通りに習近平主席は裁判結果を受け入れないとし、領土に関してドゥテルテ大統領が得るところはなかったといえる。他方、今回も資源開発や長距離鉄道整備のような大型案件が約束されており、比中経済関係は緊密の度を増すように思われる。
ただし、中国と他国との投資案件に関して、首脳会談直後に大型案件の約束がなされる一方、その実施まで考えなければ実態はわからないとの指摘は根強い。今回のコラムでは、21世紀に入って以降、中国からフィリピンへの投資の約束ではなく実態に基づいて、東アジア地域の特徴を改めて考えてみたい。実態を抑えると、勢力均衡や地政学に基づく理解とは異なるこの地域の特徴が改めて浮かび上がる。
接近と対峙の間を揺れ動くフィリピンの対中外交
21世紀に入ってから、フィリピンには3つの政権が発足した。2001年から2010年まではグロリア・マカパガル・アロヨ大統領、2010年から2016年まではベニグノ・アキノ大統領、そして2016年以降はロドリゴ・ドゥテルテ大統領がそれぞれ政権を担ってきた。
アロヨ政権は発足当初、米国との関係強化を模索したが、2004年にイラクでフィリピン人人労働者が人質に取られると、当初の予定を繰り上げてイラクからフィリピン軍部隊を撤収し、対米関係は冷却化した。その後、アロヨ政権は中国との関係強化に乗り出し、南シナ海では共同での資源開発を企画し、中国、ベトナムとフィリピンの3カ国による海洋地下資源調査を計画した。また、全国ブロードバンド網計画や北部ルソン島鉄道計画など大型の案件を結んだ。しかしながら、地下資源調査については、天然資源開発における外国資本の参加を制限する憲法に抵触、大型案件では取り決めをめぐる汚職が露見するなどしていずれも中止に追い込まれた。
アキノ政権発足当初、アロヨ政権批判が既定路線となったこともあり、対中政策の見直しが徐々に進んだ。特に、南シナ海で繰り返される中国漁船による違法操業に対し、フィリピン外務省は繰り返して外交ルートを通じて抗議した。しかしながら、中国側がフィリピンの主張を聞き入れることはなかった。
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