
(前編はこちら)
中国が、世界大国への道を邁進(まいしん)している。中国の台頭を遅らせることは可能かもしれないが、止めることはできない。中国崩壊といった、“楽観的”なシナリオを思い描くのはもうやめよう。日本は戦前、“楽観的”シナリオを積み上げて徹底的に打ち負かされたではないか。中国は今後、国力をさらに増し、それに見合った影響力を獲得していく。それが国際政治の現実だ。
グローバル化は終わらない、軍事衝突の恐れも
しかし、GDP(国内総生産)において中国が米国を抜く日はいずれ来ようが、総合的な国力において抜く日は恐らく来ないだろう。中国経済の成長速度は落ち始めている。米国はGDPにおいて一度抜かれても、「いずれ抜き返す」という予測も多い(OECD=経済協力開発機構など)。
科学技術において米国に容易に追いつけるものでもない。2020年の軍事支出も米国の3分の1にとどまる(ストックホルム国際平和研究所=SIPRI)。恐らく、軍事支出で米国を追い抜くことはないだろう。ソフトパワーの大きな源泉である総合的な文化力に至っては、さらに時間がかかる。
こうした米中の力関係を反映した新たな関係がいずれ出来上がるはずだ。そのときの世界は、名実ともに「多極化世界」になっていることだろう。米中以外のプレーヤーも活躍できる。日本にも依然として大きな発言権があるということだ。
経済のグローバリゼーションも、経済安全保障分野で修正をしつつ、基本は続くと見ておくべきであろう。中国を含むグローバル経済の相互依存関係は続くということだ。もののはずみでデカップリング(分断)が進んだとしても、それが与える甚大な経済的打撃に、どれだけの国が耐えられるであろうか。外敵をつくり、敵がい心をあおり、国内の団結を強めたとしても長続きはしない。中国も含め、いずれの国の国民も現在の高い生活水準を享受している。それを失えば、考え方はすぐに変わる。
現在、東アジアにおいて不確実性が最も高いのは軍事・安全保障の世界だ。北朝鮮の核問題はしばし脇に置いても、中国の軍拡は当面続くと見ておく必要がある。それに対する対抗措置を米国の同盟国・関係国は取り始めており、東アジアにおける軍拡競争はすでに始まっている。「安全保障のジレンマ」*に陥る可能性は高く、軍事衝突の恐れもさらに高まっている。
競争的共存は今も正しい
以上が、日本を取り巻く大きな国際環境だ。ただし、この新たな時代においても、日中国交正常化以来の日本外交の基本的考え方は依然として正しい処方箋だ。日中関係を競争的共存関係と捉え、中国との間に平和で安定した協力関係を築くという考えである。
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