しかし日本は中国の「一つの中国」の立場を、「十分理解し尊重」しているのであり、いい加減に扱ってよいことにはならない。前稿でも引用したように、米国家安全保障会議(NSC)のカート・キャンベル アジア太平洋調整官が本年7月、「台湾独立は支持せず、一つの中国政策は守る」と発言した。これは日本政府の基本的立場でもある。ここをおろそかにすれば、中国との全面衝突は不可避となろう。

 日中共同声明は、日米安全保障条約との共存を前提としている。日米安全保障条約第6条は、米軍は「極東の平和及び安全の維持」のために日本における基地を使用できることとなっている。「極東」には台湾が含まれるというのが政府の統一見解(1960年2月26日)であり、これが修正されたことは一度もない。

 他方、日本政府は日中共同声明において台湾に関する中国の立場を「十分理解し尊重」している。全面的に認めてはいないが、ほぼ認めている。日本政府は、この2つの国際約束の間の調整に細心の注意を払ってきた。

 中国が、軍事力により台湾を併合する可能性が高くなればなるほど、この間の矛盾は激化する。中国による軍事力の使用は、対米関係のみならず、日本の安全、国際社会、国際経済を直撃する。中国の「内政問題」だと切り捨てるには、あまりにも影響が大きい。それ故に日本は、台湾海峡の平和と安定に強い関心を持ち、中国に対し台湾問題の平和的解決を要求し続けてきた。

日米がともに取る戦略的曖昧政策

 1972年の上海コミュニケを下敷きにして、1979年、米中の国交正常化がようやく実現した。遅れた理由は台湾の扱いにあった。米国と台湾との相互防衛条約が失効し、台湾の安全が担保されなくなるからであった。

 米国議会は同年、台湾関係法を定め、米国は台湾に対し「十分な自衛能力の維持を可能ならしめるに必要な数量の防御的な器材および役務」を供与できることにした。また米大統領と米議会は、「台湾人民の安全や社会、経済制度に対するいかなる脅威ならびにこれによって米国の利益に対して引き起こされるいかなる危険」にも対応できるようにするために、米国がとる「適切な行動」を決定する、と定めた。自動的に米軍が出動することにはなっていない。

 米国政府は、米議会と中国政府との間にあって、あえて「曖昧戦略」をとり、米中の違いが表面化することを避けてきた。特に、中国が武力によって台湾を統一しようとしたときの米国の対応について曖昧にしてきた。

 最近は、そこを明確にすることが対中抑止の強化になるという意見も強まっているが、米国政府の慎重な基本姿勢は変わっていない。日本政府も、日中共同声明と日米安全保障条約の具体的適用について意識的に曖昧にしてきた。日米両国政府が立場を明確にすることが、中国との関係悪化のみならず、中国の台湾問題に関するレッドラインと衝突する可能性があったからである。

安保法制は、米国を自動的に支援するものではない

 中国が軍事力を急速に増強した結果、台湾をめぐる安全保障環境は確実に中国に有利となっていった。他方、日米安全保障条約の日本の安全保障の根幹としての位置づけには変化はなく、その時々の東アジア、ひいては国際的な安全保障環境の変化に応じ、日米の防衛協力の内容は少しずつ変化してきた。

 この変化は、日本の対米協力を強化するという方向性において一貫している。それは日米安全保障条約が双務性の欠如、つまり米国は日本防衛の義務を負っているのに対し、日本は米国防衛の義務がないことから来る不安定性を抱えているからであり、それを補強するための動きでもあった。

 日米安全保障条約は、国連憲章が定める集団的自衛権を基礎としている。日本政府は2014年、集団的自衛権を行使できるようにするため、それまでの憲法解釈を変更する閣議決定をした。それまでは「国際法上、集団的自衛権の権利を保有しているが、行使はできない」としていた。

 翌2015年、「重要影響事態」の概念を新設し、同事態に向けて活動の対象と内容を拡大する「重要影響事態安全確保法」を成立させた。手続きとしては、1999年に策定された「周辺事態安全確保法」の名称を変更した。同時に、「事態対処法」に「存立危機事態」を追加し、より広い範囲において自衛権行使を可能とした。

 これらの法律は、台湾有事の際に、米国に提供する支援の範囲拡大を可能とする。しかし、だからといって自動的に米国を支援することにはならない。支援するか否かは、その時点における日本と米中両国との関係が大きく影響するからだ。