米国民の退避をめぐり演説するバイデン米大統領(写真:AFP/アフロ)
米国民の退避をめぐり演説するバイデン米大統領(写真:AFP/アフロ)

 8月15日、アフガニスタンの首都・カブールがあっけなくタリバンの手に落ちた。たまたま米国出張から帰国後2週間の「自宅検疫」期間中だった筆者は、久しぶりに寝る間も惜しんで情報収集にいそしんだ。その際、多くの方々からこんな質問を受けた。「なぜタリバンはこれほど早く全土を掌握できたのか?」「なぜ30万人を擁するアフガン政府軍は機能しなかったのか?」。理由は簡単だ。アフガニスタン政府軍はタリバンと戦う前に「蒸発」してしまったからである。

 アフガン政府軍兵士が臆病だったわけでは決してない。それどころか、彼らは自分の家族や部族のためなら命を賭けてでも勇敢に戦う人々である。今回、政府軍が「蒸発」した最大の理由は、ガニ大統領率いる中央政府に不正・腐敗がまん延していたからだ。だが、そんなことは現場を知る米軍関係者なら誰でも知っていたこと。ワシントンの政策決定者はアフガン政府関係者にまんまとだまされたのだろうか。

 何よりも気になるのはアフガニスタンに取り残された米国人、同盟国人、外国人ジャーナリスト、アフガン人協力者たちの脱出状況だ。今も現地からは悲しくも恐ろしい情報が連日大量に流れてくる。個人的には現地の在留邦人の安否も気になる。今後アフガニスタンにはいかなる政権ができるのか。同国が再び国際テロの出撃基地となるのだろうか。不安は尽きないが、この点については内外の専門家に任せることにしよう。

 タリバンという組織が対外広報、対米交渉、国内政治などの面で戦術的に進化したことは事実だ。しかし、それはタリバンの勝利というより、腐敗した中央政府が自滅した結果であり、その意味でカブール早期陥落の理由はほぼ出尽くしている。されば、今回は視点を変えて、カブール陥落後に米国内で巻き起こったバイデン政権に対する批判に焦点を当て、同政権の将来を占ってみよう。毎度のことながら、以下はあくまで筆者の個人的分析である。

 バイデン大統領に対する批判は大きく3つに分類できる。

事後批判する無責任な結果論者

 第1は無責任な結果論である。米語にMonday Morning Quarterback(月曜朝のクオーターバック、QB)という言葉がある。QBとはアメリカンフットボールなどで、攻撃する選手にプレーを指示する「司令塔」の役割を果たすポジション。米国のフットボールの試合はおおむね土日開催なので、月曜日朝のQBとは、ごひいきチームの試合の結果を、「あれはだめだった」「こうすればよかった」などと素人が無責任に批判する結果論者のことを指す言葉だ。

 8月15日からの米国内報道を見ていると、今一番多いのはこの種の結果論的な事後批判だ。当然ながら、共和党保守系メディアは今回の対応を「破滅的失敗」とこっぴどく報じている。さらに、バイデン政権に優しいあのCNNですら、「バイデン政権のアフガニスタン撤退判断は正しかったとしても、その手法は拙速だった」といった厳しい批判を続けている。バイデン大統領は就任後最大の政治的困難に直面していると言ってよいだろう。

 ワシントンにはIntelligence failureという言葉もある。直訳すれば「諜報(ちょうほう)の失敗」、すなわち、情報機関が正しい情報(諜報、インテリジェンス)を政策決定者に提供しなかったという批判だ。バイデン政権批判にも聞こえるが、実はこれ、「政治判断の失敗」という批判に反論するため、ホワイトハウス側が意図的に流す決まり文句でもある。「間違った」のは「情報機関」であって、自分たちホワイトハウスではないという毒のある言葉だ。

 こうした状況を象徴する以下のやりとりが8月20日のバイデン大統領の記者会見で見られた。

(記者)バイデン政権は、タリバンがアフガニスタンを短期で制圧する力を見誤ったのではないか? (中略)現地大使館からタリバンによる早期制圧を警告する公電があったと聞くが…

(大統領)その種の公電やアドバイスはたくさんあった。具体的時期を示さず、単にカブールは「陥落するだろう」とする内容から、政権は「当面持つだろう」「年末までは続くだろう」という内容まで、幅があった。私は決断を下した。責任は私にある。自分はコンセンサスの意見を採用した。コンセンサスとは、実際には、本年後半まで陥落は起きないというものであり、それが私の決断だった。

 苦しい説明だが、アフガニスタンの実態をそれなりに知る筆者は同情を禁じ得ない。そもそも、米国の情報機関はつい1カ月ほど前まで、「アフガン政権はもって2年」「いや年末までは」「90日間は」「60日間」は、などと言っていたではないか。アフガン政府軍の「蒸発」は大半の関係者にとり予測不能だった。ここで完璧な脱出作戦を計画・実行することは容易ではない。無責任な「月曜朝のQB」の政治的批判の多くは「ないものねだり」である。

続きを読む 2/2 何のために戦い、傷付き、死んだのか

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