北朝鮮が最近開発を進める兵器は「韓国キラー」の役割を果たす(写真:AP/アフロ)
北朝鮮が最近開発を進める兵器は「韓国キラー」の役割を果たす(写真:AP/アフロ)

 GSOMIAは日韓の軍事関係における唯一の協定だ。海上自衛隊で自衛艦隊司令官(海将)を務めた香田洋二氏は、韓国がこれを破棄したことで「日米韓の『疑似』3国同盟が大打撃を受ける」と指摘する。朝鮮半島有事における米国の行動を非効率にしかねない。韓国は、8月14日に防衛戦略を改定し、F-35Bを搭載する軽空母を国内建造する意向などを明らかにした。香田氏は「これにも警戒を要す」という。

(聞き手 森 永輔)

韓国が8月22日、日韓軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄を決めました。この重要性と今後の影響についてうかがいます。まず、GSOMIAとはどのような協定なのか教えてください。

香田:お互いから得た情報を第三国・第三者に流さない、という取り決めです。細かい部分では、手渡し方法とか保管方法も定めています。例えば二重封筒に入れて保管するとか。これによって日韓両国が安心して情報を共有することができます。締結前よりも機密度の高い軍事情報をやりとりできるようになりました。

<span class="fontBold">香田洋二(こうだ・ようじ)</span><br />海上自衛隊で自衛艦隊司令官(海将)を務めた。1949年生まれ。72年に防衛大学校を卒業し、海自に入隊。92年に米海軍大学指揮課程を修了。統合幕僚会議事務局長や佐世保地方総監などを歴任。著書に『賛成・反対を言う前の集団的自衛権入門』など。(写真:大槻純一)
香田洋二(こうだ・ようじ)
海上自衛隊で自衛艦隊司令官(海将)を務めた。1949年生まれ。72年に防衛大学校を卒業し、海自に入隊。92年に米海軍大学指揮課程を修了。統合幕僚会議事務局長や佐世保地方総監などを歴任。著書に『賛成・反対を言う前の集団的自衛権入門』など。(写真:大槻純一)

日韓が情報を「直接」やりとりできるようになるという説明もありますね。

香田:そういう面もあります。従来は、米国がハブになってサニタイズをして情報を伝達していました。サニタイズとは、米国が韓国から得た情報を、韓国発と分からないようにして、もしくは一般情報として日本に伝えることをいいます。もしくは、サニタイズを経て、日本発の情報を韓国に伝える。

 しかし、日本が得たい情報と米国が得たい情報は異なります。GSOMIAがあると、日本が必要とする情報を韓国から直接得られるようになります。

 以前に北朝鮮が“人工衛星”を真南に打ち上げたことがありました。日本は当時、発射後しばらく追尾することができませんでした。一方、韓国は発射後しばらくの情報は捕捉していたものの、それ以降の情報は得られなかった。両国間では、それぞれの情報を交換するのかどうかすら決まっていませんでした。GSOMIAの下で、北朝鮮が発射する弾道ミサイルの軌道情報を交換することを決めておけば、両国がこの飛翔体の軌道の全体像を把握することができます。

 2016年11月にGSOMIAを締結して以降、日韓で29回の情報交換がなされ、その多くが北朝鮮の弾道ミサイルに関するものでした。ただし、交換する情報の対象は弾道ミサイルに限るものではありません。北朝鮮が弾道ミサイルを発射する頻度を上げたため、これに関する情報交換が多くなりましたが、その時々の環境に応じて、交換・共有する情報の対象は異なります。

日本の情報収集能力は自由主義諸国では米国に次ぐ

韓国紙の報道によると、韓国内には「日本が提供する情報の有用性は低い」との見方があるようです。一方で、香田さんは破棄によって韓国が被るダメージの方が大きいとおっしゃっています。

香田:私は韓国が被るダメージの方が大きいと考えています。再び、ミサイル防衛システムを例に話をしましょう。韓国は自前のミサイル防衛システムを持っていません。イージス艦を運用していますが、これは弾道ミサイルを探知するための高性能レーダーは装備しているものの、迎撃用の対空ミサイルは装備していません。

 注目されているTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム)は在韓米軍が自らを守るためのもので、韓国軍が運用するものではない。

 これに対して日本は、海上にはイージス艦を展開、地上にはパトリオットミサイルを配備して自前のシステムを構築しています。これは、米国を除けば、考え得る限りで最高の装備です。

海上自衛隊はイージス艦を2020年度には8隻体制に拡充します。地上配備型のイージスシステムであるイージス・アショアについても、配備することを2017年12月に決定しました

香田:そうですね。つまり、ミサイル防衛システムを自前で行っていない韓国が、自前で運用している日本から、すぐにも使える形の情報を得られるわけです。これは大きいのではないでしょうか。

 韓国が日本から得られる情報はミサイル防衛関連にとどまりません。情報収集のための体制は日本がずっと優れています。西側では、米国に次ぐものと言えるでしょう。日本は衛星を7つ運用しているの対し韓国はゼロ。P-1やP-3Cといった洋上哨戒機は日本が73機、韓国が18機。早期警戒管制機(AWACS)は日本が18機、韓国は4機です。日本の方が、「一日の長」ならぬ5日くらいの長があると言うことができる。

 一方、北朝鮮に関する情報については、韓国が優れています。両国は地理的に近いですし、同じ民族で同じ言語を話すわけですから。

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