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アフターコロナの経済はどうなるのか。リーマン・ショック時と同様に、中国が世界経済回復の機関車の役割を果たしそうだ。そして中国市場での需要拡大は日本企業に恩恵をもたらす可能性が高い。中国は歴史的に日本企業に好感を持っていることに加え、米中対立が追い風となる。特に期待できるのは、5G、EV、AI・ITを活用した自動運転や遠隔医療、都市と郊外を結ぶ鉄道、コールドチェーンなどの分野だ。キヤノングローバル戦略研究所の瀬口清之研究主幹に聞いた。

(聞き手:森 永輔)

輸入されたトヨタ車。中国・深圳にて(写真:ロイター/アフロ)

内閣府が8月17日、4~6月期の国内総生産(GDP)伸び率を▲27.8%(年率換算)と発表しました。新型コロナウイルスの感染拡大を抑えるべく、緊急事態宣言を発出したことが景気を低迷させました。今後の経済復興がどう進むのか、懸念が高まっています。

瀬口:日本企業は極端に悲観する必要はないと考えます。むしろ大きなチャンスを手にするかもしれません。その理由を順にお話ししましょう。

瀬口 清之(せぐち・きよゆき)
キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 1982年東京大学経済学部を卒業した後、日本銀行に入行。政策委員会室企画役、米国ランド研究所への派遣を経て、2006年北京事務所長に。2008年に国際局企画役に就任。2009年から現職。(写真:丸毛透)

 まず新型コロナ危機でダメージを受けた経済を復興させるべく、中国政府が8兆元を超える財政出動を決めました(関連記事「中国が8兆元の財政出動、リーマンの轍は踏まない」)。これが、2008年のリーマン・ショックのときの4兆元の財政出動と同様に、世界経済の回復に大きな役割を果たすと思います。

 2008年と異なるのは、1つには、財政出動の規模がさらに大きいこと。世界のGDPに与えるインパクトは当時以上に大きくなる可能性があります。そろそろ「中国機関車論」がエコノミストの口の端に上るようになるのではないかと思います。

 もう1つの違いは、日本が一層恩恵を受けられることです。08年当時は、日中関係があまりいい状態にありませんでした。しかもその後、10年に中国漁船が尖閣諸島周辺の海域で、海上保安庁の巡視船に衝突する事件が発生。11年には、日本政府が同諸島を国有化したのに伴い、中国で反日デモが盛り上がり、日中関係は戦後最悪の状況に陥りました。こうした日中関係の悪化を背景に日本企業は、4兆元の財政出動が中国市場にもたらした需要拡大のチャンスを十分に享受することができませんでした。日本企業が政治的逆風により身動きが取れない状況を格好のビジネスチャンスと捉え、欧米企業は中国市場における日本企業のシェアを奪っていきました。

 しかし、18年5月に李克強首相が訪日したのを機に、日中関係は急速に改善方向に向かい、現在の日中関係は1990年代前半以来、最も良い状態にあります。米中が激しく対立する状況で、日本との関係まで悪くするのは中国にとって得策ではありません。日米同盟を軸とする対中包囲網が出来上がってしまうからです。

 また中国は歴史的に、日本企業を大事に思ってきました。戦後の日本経済が外国企業の直接投資流入を排除して日本企業だけによる閉鎖的な発展を遂げたのと異なり、中国は改革開放をスローガンに掲げ、外国からの投資受け入れの拡大をてこに成長を遂げてきました。その中で中心的役割を担ってきたのが日本企業です。1995年以降の累積投資額は1000億ドルを超え、世界最大。欧米企業と異なり、多少業績が悪くても安易に撤退することなく、長期安定的に地道な経営を持続し、中国での事業から得た利益を中国に再投資してきました。これが中国各地で雇用と税収の拡大をもたらしました。

 日本企業は数々の技術を関係先の中国企業に供与してきました。この努力により、中国現地で日本企業向けに部品を供給する中国地場企業のネットワークを構築し、低価格で質の高い部品の現地調達比率を引き上げ、地道にコストダウンを図ってきました。これが中国企業の技術を高度化し、中国経済全体の生産性向上を導きました。もちろん、日本企業は多くの技術を盗まれもしました。しかし、おかげで日本企業は、技術の盗難を防ぐノウハウを蓄積し、その面では現在、欧米企業より優位な状態にあります。