(写真:AFP/アフロ)
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瀬口 清之・キヤノングローバル戦略研究所研究主幹(以下、瀬口):今回は、中国が2020年代後半以降、成長率低下、経済不安定化の難局を迎える前に、「人民」の格差拡大に対する不満と、地方政府が抱える債務問題に目を向け、政府が対策を急いでいる動きを取り上げたいと思います。

 最近、中央政府による企業への統制強化が相次いでいます。2020年秋には、アリババ集団傘下の金融企業アント・グループの上場を阻止。今年3月には、軍および機密情報を扱う国有企業や政府関係者に対し、米テスラ製の電気自動車(EV)の利用を制限していることが報じられました。7月上旬には、中国配車最大手、滴滴出行(ディディ)に対し、スマートフォン用アプリのダウンロードを停止させる措置を取りました。

 そして直近の話として、学習塾に対する規制強化を7月下旬に発表しました。「学校の宿題を減らし、放課後に塾で過ごす時間を短縮して、保護者の負担を軽減するとともに、子供の健全な成長を促進する」との建前を掲げていますが、実質の狙いは学習塾に払う教育費の削減にあります。

<span class="fontBold">瀬口 清之(せぐち・きよゆき)</span><br />キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 1982年東京大学経済学部を卒業した後、日本銀行に入行。政策委員会室企画役、米国ランド研究所への派遣を経て、2006年北京事務所長に。2008年に国際局企画役に就任。2009年から現職。(写真:加藤 康)
瀬口 清之(せぐち・きよゆき)
キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹 1982年東京大学経済学部を卒業した後、日本銀行に入行。政策委員会室企画役、米国ランド研究所への派遣を経て、2006年北京事務所長に。2008年に国際局企画役に就任。2009年から現職。(写真:加藤 康)

 例えば、学習塾が営利事業を営むのを認めない、学習塾が株を上場して資金調達することも認めない。塾というと、小中高校生向けの塾が思い浮かびますが、対象はそれらにとどまりません。良い小学校に入学したい未就学児を対象にした塾もターゲットです。未就学児向けのサービスは認めない。オンラインを使って中国人・外国人教師が小中高校生・未就学児に学科や外国語を教えるサービスも禁止しました。最近、拡大していたものです。

 それぞれの規制強化の背景として、さまざまな理由が挙げられています。例えばアントについては、事業規模が大きく、事業を拡大するため高いレバレッジを効かせていたため、金融リスクが高かったこと。テスラとディディについては、要人を含む個人の情報や、安全保障に関わる情報が漏えいする原因になりかねないこと、などが指摘されています。学習塾は、先ほどお話しした通りです。

 いずれも、もっともな話です。そして今、中国の有識者たちはさらに、これらに共通する背景に注目しています。金融、データ、教育と何のつながりもないように見えますが、さにあらず。共通するのは、貧富の格差の拡大に対する危機意識です。

 中央政府は小康社会*を目指し貧困の撲滅に努めてきました。これは一定の成果を上げ、路上死するような絶対的な貧困はなくなった。しかし、相対的な貧富の格差は拡大したままで、庶民の不満は強まるばかりです。特に子供の養育費の高騰は中低所得層の家庭の子供たちと高所得の家庭の子供たちの間の学習機会の格差を拡大させ、学力格差の拡大を助長し、社会階層の固定化を招いています。

*=ややゆとりのある社会
続きを読む 2/5 「これだけもうけているのに、さらにもうけるのか」

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