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 イタリアが激震の中にある。ジュセッペ・コンテ首相が8月20日に辞任する意向を表明し、イタリア政局は一歩先も見えない闇に突き落とされた。右派ポピュリスト政党「同盟」のマッテオ・サルビーニ内務大臣が8月8日に「五つ星運動との連立は崩壊した」と宣言し、今年秋に総選挙を実施するよう要求したからだ。同氏は議会に対し、五つ星運動に近いジュセッペ・コンテ首相に対する不信任投票を直ちに行うよう求めた。「同盟」の支持率が上昇しているため、同氏は選挙で同盟が圧勝し、自ら首相になれると考えているのだ。

イタリアのマッテオ・サルビーニ内務大臣(写真:ロイター/アフロ)

 イタリア議会上院が8月13日、サルビーニ内相の提案した不信任投票を拒否したため、同氏が導く「政権奪取計画」は一旦ブレーキがかかった。だがコンテ首相は「内相が自分の政治的野心の追求を優先して今回の危機を引き起こしたため、連立政権の維持はもはや不可能だ」と述べ、8月20日に辞任の意向を明らかにした。左派と右派のポピュリスト勢力が作った奇妙な連立政権は、わずか14カ月で息の根を止められた。

 今後は、セルジオ・マッタレラ大統領が議会の会派の代表たちと協議して、議席の過半数を占める政権の樹立が可能かどうかを検討する。樹立不可能と判断した場合には議会を解散して、今年秋に総選挙を行う。

 先が読みにくい中、他のEU(欧州連合)加盟国では既に不安が広がっている。ドイツのメディアは「万一サルビーニが首相になった場合、EUの求める緊縮策に真っ向から反対する」として、イタリアのユーロ放棄、さらにEU離脱の可能性まで危惧している。

右派ポピュリスト政党の支持率が急上昇

 同盟と五つ星運動の連立政権樹立は、もともと「野合」だった。同盟は、難民受け入れに批判的な右派ポピュリスト政党。一方の五つ星運動には、環境問題などを重視する左派ポピュリストが多い。2つの勢力の共通点は、EUに対し批判的であるという点だけだった。権力の座に就くためには、主義主張が異なる党とも組んでしまうのは、イタリア政界の特徴である。したがって、この不自然な連立政権に亀裂が生じるのは時間の問題だった。

 サルビーニ内相は、同盟が進める鉄道建設計画に五つ星運動が反対したことをきっかけに、左派との連立を一方的に放棄した。むしろ同氏は、連立を解消する口実を探していたのかもしれない。その理由は、同氏が率いる同盟への支持率が爆発的に高まっていることだ。2019年5月に実施された欧州議会選挙における同盟の得票率は34.3%。これは18年3月のイタリア議会選挙(上院・下院)での得票率(17.3%)に比べて、17ポイントも高い値だ。逆に、連立パートナーである五つ星運動の得票率は、32.7%から17.1%へ激減した。

 サルビーニ氏は、五つ星運動の人気が低落する中、他の右派政党と連立すれば過半数を占めて自分が首相に就任できると考えているのだ。同氏はすでに2つの右派政党「フォルツァ・イタリア」と「フラテリ・デ・イタリア」の党首たちと近く会談する方針を明らかにしている。その意味で突然の連立解消は、サルビーニ氏の周到な計算に基づいた“国取り作戦”の一環と見るべきだろう。

難民受け入れを拒否するサルビーニ内相

 欧州南部では、難民問題が依然として大きなテーマとなっている。地中海を船で渡って欧州にたどり着いた外国人の数は18年に約14万人だった。19年は上半期だけですでに13万5000人に達している。イタリアは欧州の南部に位置しているため、多くの難民が目指す国となっている。国連難民高等弁務官(UNHCR)によると、19年3月31日までにイタリアに到着して収容施設に受け入れられた難民の数は約12万2000人。このうち6300人がイタリアへの亡命を申請した。

 難民から金を取ってアフリカや中東から欧州に運ぶ「運送業者」たちは、欧州に近づくと難民たちを船からゴムボートに乗せて漂流させ、欧州の船に救助させる。この際に多くのゴムボートが転覆し、多数の死者が出る。18年1年間に欧州へ向かう途中で溺死した難民の数は2277人にのぼる。