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米国は7月、中国がWTOに対し発展途上国と申告し、優遇措置を受けていることに不満を表明しました。中国のこの動きは、自由貿易を国是とすることと整合しないのではないですか。

瀬口:WTOのルールには、自己申告すれば発展途上国に認定されてしまう瑕疵(かし)があるのです。こうした瑕疵を利用し、自国に有利に図ろうとするのは中国に限ったことではありません。韓国、メキシコ、トルコ、シンガポール等も発展途上国に分類されています。

中国版のエンティティー・リストを作って対抗する、という見方もあります。

瀬口:それは中国政府の商務部が実際に進めていると報じられています。ビジネス以外の目的で中国企業に対して封じ込めや供給停止を実施し、中国企業の正当な権益に深刻な損害を与える外国法人、組織、または個人をリストに盛り込む、というかたちの規制になる方向です。

 これが実現すると、最も影響を受ける可能性があるのは日本企業です。対中国でも対米国でも、取引額が大きいですから。日本企業は米国のエンティティー・リストと中国のエンティティー・リストという2つの“虎の尾”に注意を払いつつビジネスをしなければならない環境に置かれるかもしれません。

長老は習近平に口出しできない

今後の米中協議の展望について伺います。8月に入り、中国では北戴河会議の季節が到来しました。政権の中枢と共産党の長老が集まり、長老が中枢にモノ申す場とされています。

瀬口:習近平国家主席は、党内での地盤を確固たるものにしています。昔と異なり、長老が口をはさむことはできないのではないでしょうか。習近平政権が大きな失敗をしていれば別ですが……。

 習近平政権は米中摩擦をもうまくマネージしていると思います。雇用も物価も安定しています。不動産価格も同様です。構造改革も粛々と進めている。長老が口を出すことは難しいように見えます。

「米国に対して弱腰だ」といった批判は出ませんか。

瀬口:習近平政権の姿勢は受け身ではありますが、弱腰ではないと思いますよ。そして、したたかに、外圧として利用できるものは利用している。

中国は今秋、建国70周年を迎えます。これに臨んでナショナリズムが高まる傾向があり、習近平政権は米国に対し安易な妥協はできない、という見方があります。

瀬口:多くの中国国民は既に“大人”になっていると思います。建国70周年だからといって国民全体がナショナリズムで盛り上がるようなことはありません。もちろん共産党の中で、習近平国家主席を盛り立てて、人民を指導していこうという話はあると思います。しかし、約13億人の非党員の大多数までがそれに同調することは考えづらい。

 反米の機運についても同様のことが言えます。現時点でも、米国製品に対する不買運動のようなものは起きていません。米中関係は、日中関係や日韓関係に比べて国民感情レベルではそれほどエモーショナルになっておらず、比較的安定しているのです。

経済成長率は2019年が6.3%、2020年は6.2%か

最後に中国経済の展望についてお伺いします。今年4~6月期の成長率が前年同期比6.2%(1~3月期の成長率は同6.4%)に減速したことが注目されました。

瀬口:私は、今年の後半に向けて緩やかに上昇すると見ています。

 ただし、中国の政府関係者やエコノミストの意見を聞くと、上がると見ている人は少数派です。「2019年は6.2%で着地し、2020年は6.0%前後」と見る向きが現時点での主流です。

 彼らの見方は非常に健全です。構造改革を優先する意向を示しているからです。仮に、この予測が実現した場合、中国が「13次5カ年計画」で定めた「年平均6.5%成長」を達成できなくなります。さらに、「2020年までに実質国内総生産を2010年の倍にする」という公約も実現できません。この見通しを予測する中国の専門家に「それでもいいのか」と問うたところ、ほぼ全員が「個人的な見解だが、かまわないと思う」と回答しました。