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 かつ、この措置は両刃(りょうば)の剣の性格を持ちます。新たに関税が引き上げられる3000億ドル分には消費財が多く含まれるので、米国の消費者にも負の影響をもたらす。なので、トランプ大統領は本当は実施したくなかったのではないでしょうか。FRBの利下げが期待より小さかったので、進めざるを得なくなったのだと考えます。選挙対策の観点から、消費者が強く反発するようなら長くは続けられないでしょう。

米消費者への影響が出始めるのはいつごろでしょう。

瀬口:3カ月くらい先になるといわれています。

そうすると、クリスマスの時期と重なりますね。

瀬口:はい。米大統領選も佳境に向かう頃だと思います。

決済ネットワークからの締め出しに欧州諸国は賛成するか?

為替操作国への認定はいかがでしょうか。

瀬口:これは、認定そのものよりも、認定後に米国が何をするかによります。考えられるのは、例えば中国の銀行が米国内に開設している支店の取引を制限する。

 もしくは今回の対中制裁関税第4弾を強化し、税率を10%から25%に引き上げる。30%、40%と引き上げることもできると思います。ただし、これらは劇薬に過ぎて、実行できないプランかもしれません。

中国人エコノミストのユ・ヨンディン氏は、国際銀行間通信協会(SWIFT)が提供する国際送金サービスや、大口資金の振り替えに使用するクリアリングハウス銀行間支払いシステム(CHIPS)といった重要サービスの使用権を奪う可能性を指摘しています。

*=いずれも国際決済に関わるサービス

瀬口:あり得る話ですね。ただし、SWIFTなどから中国を排除するには欧州諸国の同意が必要です。彼らは米国に同意するでしょうか。現在の中国が取っている行動を「為替操作」と認定するのは難しいと思います。そもそも、米国が対中制裁関税第4弾を決めたことが引き金で起きた元安ですから。米国の行動はマッチ&ポンプになっています。

 加えて、欧州諸国は米国に反発しています。パリ協定やイラン核合意からの離脱が原因です。

米国債の売却、レアアース規制は可能性低い

米国による一連の措置に対抗して、中国が取り得る措置はあるのでしょうか。中国人民銀行(中央銀行)は為替操作国と認定されたのに反発して、声明の中に「(米国の措置は)金融市場の混乱を引き起こしかねず、最終的には自分に結果が跳ね返るだろう」との文言を挿入しました。

瀬口:それは、中国が対抗措置を取らなくても、巡り巡って米国に跳ね返るという趣旨です。米中関係が混乱すれば、世界経済の成長も鈍化し、米国にもマイナスの影響を及ぼすということ。中国は米国が繰り出す動きに対して受け身の形で対応することはありますが、自ら積極的に米国を攻撃する意図はないと思います。中国は米国に対して常に受け身なのです。

中国が、保有する米国債を売却することで米国に報復する、という見方が再び浮上してきました。

瀬口:これは、考えにくいでしょう。仮に米国債を売ったとして、手元の資金をどこで運用するのでしょう。円建ての国債に投資しようにも、日本は巨額の財政赤字を抱えている。ユーロは、ECB(欧州中央銀行)が利下げを示唆しているように、英国のEU離脱(Brexit)の問題もあって、これから景気の下降局面に入りそうです。資金の最も安全な運用先は米国債なのです。円国債、ユーロ国債ともに米国債に比べて市場規模が小さいことも課題です。

 さらに、中国が米国債を大量に売却し、値崩れが起これば、中国自身の資産が目減りすることにもなりかねません。

レアアースをツールにした報復はいかがですか。

瀬口:可能性はなくはないと思いますが、賢い方法とは思えません。現在の中国は自由貿易を国是にして、世界に発信しています。レアアースを持ち出すと、自由貿易に反する攻撃を中国が仕掛けたことになってしまいます。中国は自由貿易を支持するチャンピオン、米国はこれを破る悪者、という絵を描ける対応を取るほうが得策です。