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 さらに、先ほど触れたように、トランプ大統領が米国企業に対してファーウェイとの取引を認める趣旨の発言をしました。その後、米国政府は、同社をエンティティー・リストから除外することもなく方針は変わっていない、と発表しています。しかし、中国現地の米国企業関係者の間では、7月下旬の時点においてトランプ大統領がこう発言した以上、その運用基準は発言前に比べて甘くなることが期待されていました。

人民元が下落した理由

そのように米中間の緊張が緩和していたにもかかわらず、トランプ大統領は8月1日、対中制裁関税の第4弾を発動する意向を表明しました。これはなぜだったのでしょう。

瀬口:その直前にFRBが利下げを決めています。下げ幅は0.25%で、トランプ大統領の期待を下回るものでした。これでは2020年の大統領選をにらんで不十分と評価したのでしょう。不足分を補うべく、矛先を中国に向けたのだと思います。

トランプ大統領の行動はすべて選挙対策ですね。

瀬口:おっしゃる通りです。

 ちなみに、トランプ大統領はFOMC(米連邦公開市場委員会)の期間中に、FRBに対して利下げを要求しました。これは大統領として非常識な行動です。加えて、FRBはこの要求に屈して利下げをしてしまいました。中央銀行として、その独立性を失ったと言っても過言ではないでしょう。

このあと、人民元が下落し、騒動が大きくなりました。人民元の下落はその因果関係が見えづらかったですね。米国の利下げは、米中間の金利差拡大につながるので、通常であれば元高を助長します。それでも、人民元は逆に下落に向かった。

瀬口:その通りですね。対中制裁リスクが一段と高まったことの方に市場がより大きく反応したということだと思います。7月末に行われた米中閣僚級協議でも大きな進展はありませんでしたし。これらを引き金に中国経済の将来を不安視する見方が強まり、人民元が売られたのです。

元安容認は人民元の国際化のため

中国政府は「元安を容認」したとの見方が主流になっています。実際にそうなのでしょうか。

瀬口:はい、そう思います。中国政府は元安には介入しないことを決めた。ただし、その理由は米国との“通貨戦争”ではありません。人民元の安定を維持するとともに、自由化を進めることにあります。

 自国通貨の安定を保つことは中央銀行にとって極めて重要な役割です。中国が元安をとどめるべく、ドル売り・元買いの介入をすると、中国の外貨準備高が減少します。すると、これを不安視する投機家がさらに人民元を売るようになる。元安と介入の悪循環が生じてしまうのです。市場の期待が大きく動いた状況下で人民元の価値を安定させるには、為替市場への介入は適切ではありません。

 もちろん、元安が投機筋のさらなる元安不安を招き、元安が急速に進む場合には、介入もあり得るでしょう。これはスムージング・オペレーションと呼ばれる為替介入です。もしそうした不安定な投機的状況を放置すれば、「売り」が「売り」を呼ぶ事態に陥るからです。しかし、それは現在の元安トレンドをモデレートに(適正な勢いに)調整するための措置で、トレンドを元高に逆転させるようなものではありません。

 為替市場参加者の多くが元安方向を予想している時に、その流れを逆転させるような為替介入を行っても効果はありません。自国の外貨準備が減少するだけで、かえって元安を助長することになる可能性が高まります。

 中国はかねて人民元の為替自由化を徐々に進めてきました。例えば15年8月には、IMF(国際通貨基金)と相談しながら人民元レート基準値算定方式の変更を実施しています。今後もこの姿勢を継続するでしょう。自由化をする以上、政府が不当な為替介入をしてはいけません。今回の元安容認は、中国政府が腹を据え、人民元の為替自由化に対する決意を見せたと言ってもよいでしょう。