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8月に入るのと前後して、米国が3つの大きな動きを示した。7月31日には金利を引き下げ。8月1日には、対中制裁関税第4弾を発動すると表明した。さらに5日には、中国を為替操作国に認定。一連の動きは中国経済にどのような影響を及ぼすのか。中国経済ウオッチャーの瀬口清之氏に聞いた。(聞き手 森 永輔)
(写真:AFP/アフロ)

8月に入るのと前後して、米中関係で大きなイベントが続きました。7月31日にはFRB(米連邦準備理事会)が金利を2.00~2.25%に引き下げ。8月1日には、米国が対中制裁関税の第4弾を発動すると表明しました(年約3000億ドル分の輸入に対して10%)。さらに、8月5日には米国が、中国を為替操作国に認定したと発表しました。一連の動きが中国経済にどのような影響を及ぼすのかについて順にお伺いします。

瀬口 清之(せぐち・きよゆき)
キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹
1982年東京大学経済学部を卒業した後、日本銀行に入行。政策委員会室企画役、米国ランド研究所への派遣を経て、2006年北京事務所長に。2008年に国際局企画役に就任。2009年から現職。(写真:丸毛透)

瀬口:その問いにお答えする前に、5月10日に米中貿易協議が決裂して以降の動きを振り返ってみましょう。

 中国経済の4~6月期のファンダメンタルズは、1~3月期から大きく変わってはいません(関連記事「中国のTPP加盟、ハードルは案外低い」)。しかし、米中貿易協議の決裂を受けて中国では、今後の展開に対する不安が高まりました。中国から米国への輸出2000億ドル分に対する関税(対中制裁関税の第3弾)が10%から25%に引き上げられることが5月10日に発表されたのも大きく影響しました。

 この流れが、G20の場を借りて行われた6月29日の米中首脳会談を機に変わります。「米中の協議が再開されれば御の字」と言われていたところ、ドナルド・トランプ米大統領が「米国企業が華為技術(ファーウェイ)と取引をすることを認める」と発言するまで踏み込んだからです。

 これに先立って6月24日に開かれた閣僚級協議で、米中は協議再開に合意しました。これは、中国側の代表が劉鶴副総理だったからこそと評価しています。同氏は、米国との協議をまとめようと一貫して妥協的な姿勢を続けてきました。5月に決裂してしまったのは、中国国内の保守派から反対が起こったからです。米国側もこの点を理解しており、劉鶴副総理とのコンタクトを大切にしてきました。

 6月28日には習近平国家主席が重要講話を発表し、米国側の要求をほぼ丸のみする方向で改革を推進する意向を明らかにしました。例えば知的財産権の保護を強化する、内外企業の待遇平等化を全面的に実施するなどと明言しました。これは大きかったですね。G20という世界が注目する舞台で明らかにしたわけですから。

 こうした経緯を経て、米中の両首脳は6月29日の首脳会談で協議再開にお墨付きを与えた。ここで注目すべきは協議の期限を切らなかったことです。2020年秋の米大統領選をにらんで、トランプ大統領は早く成果を出したいところです。しかし、下手に期限を設けると、その時点で目に見える成果が達成できていない場合、逆に野党民主党に攻撃の材料を与えることになることを考慮したのではないかと思われます。その点を考えて、期限を設定しなかったものと推察されます。