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尖閣諸島をめぐる2012年9月の日中の衝突が、中国を「力による現状変更」に踏み切らせた(写真:AP/アフロ)

 習近平(シー・ジンピン)指導部は、新型コロナウイルス対策の初動に間違いなく失敗した。そこで、新型コロナを全面的に抑え込み、経済を回復させ、世界から感謝されるという、失敗談を成功物語に逆転させるシナリオを書いた。そのハイライトが「マスク外交」ということになる。

 ところが、トランプ政権が中国責任論を打ち上げ、幾つかの国が同調し、出ばなをくじかれた。しかも中国が“善意”で提供したマスクなどの医療物資や器具を不良品だと文句をつける国まで現れた。そこで相手を徹底的に攻撃し始めた。

暴走する中国外交?

 中国は、これと似たようなことをこれまでにも時々やってきたのだが、今回ほど集中的に華々しく過激にやったことはない。この中国の態度急変に世界は驚き、「戦狼外交」と名付けた。

 米国のアジア政策に一定の影響力を持つカート・キャンベル元国務次官補は、最近のフォーリンアフェアーズ誌ウェブ版に「韜光養晦(とうこうようかい。強くなるまで爪を隠す)の終わり―北京の外交政策自制の終わり?」と題する一文を寄稿している 。米国に対する言葉使いから配慮が消えたこと、東シナ海、南シナ海、インド国境などにおける中国の攻撃的行動などを踏まえ、若干の留保を付けながら、次のように結論付けている。

中国の外交政策が新型コロナ危機後、根本的に変わり、強硬路線にかじを切ったことが、米中関係が最悪になった理由の一つだ。習近平は、長年の外交政策の原則を一挙に変えた。危機意識を背景にナショナリズムは強まり、自らの継続的な台頭を信じて、中国は、これまで以上に危険を冒しても構わないと考えている。

 確かに「戦狼外交」をやっているようにも見えるし、対外強硬一本やりのようにも見える。そうなると、これはもう「外交」とは呼べない。なぜなら「外交」の任務は、国家の存続あるいは発展に必要な外的条件を整備することにあり、言葉の「戦争」をすることにあるのではないからだ。

 現在、中国にとっての最大の挑戦は対米関係であり、これだけでも手に余る。対米関係に焦点を当て、すべてを動員して自己に有利な状況をつくり出すのが普通の「外交」というものだ。対米関係以外の問題は沈静化させるか、脇に置くのが当たり前なのに、中国はそうしていない。中国外交に何かが起こっていると言わざるを得ない。果たして何が起こっているのであろうか?