アブダビのムハンマド・ビン・ザイド皇太子(左)とサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子。2人の関係は蜜月といわれていた(提供:Bandar Algaloud/Saudi Kingdom Council/Abaca/アフロ)
アブダビのムハンマド・ビン・ザイド皇太子(左)とサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子。2人の関係は蜜月といわれていた(提供:Bandar Algaloud/Saudi Kingdom Council/Abaca/アフロ)

 過去5年ほど、サウジアラビアとアラブ首長国連邦(UAE)の関係はきわめて強固なものがあった。特に、両国の実質的な統治者とされるサウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマーン(以下、サルマン)皇太子(以下、「MbS」)とアブダビのムハンマド・ビン・ザーイド(以下、ザイド)皇太子(以下「MbZ」)の関係は文字どおり蜜月といわれていた。筆者自身も、年長のMbZが若きMbSのメンターの役割を果たしていると考えていたほどだ。

 しかし、昨年後半ごろから何となく不協和音らしきものが聞こえ始め、今年に入るとそれがさらに顕著になってきた。つい最近も、石油輸出国機構(OPEC)加盟国であるサウジアラビアと非加盟のロシアが主導するOPECプラスの協議が、UAEの反対で決裂する事態に陥った。サウジとUAEの利害が必ずしも一致しておらず、微妙な緊張関係にあったことがメディアでも大きく報じられた(最終的には合意ができたが)。

同床異夢のイエメン介入

 サウジアラビアは2015年3月、イエメン正統政府の要請を受けイエメンへの軍事介入を開始した。同正統政府は、イエメンの武装勢力フーシー派(以下、フーシ派)による事実上のクーデターで首都から駆逐された。父サルマン国王の即位を受け、新たに国防相に任命されたMbSの初陣というべきものであった。

 このときサウジアラビアは、イランが支援するとされるフーシ派と戦うため、アラブ・イスラーム(以下、イスラム)有志連合を組織した。これは、装備、費用を含め実質的にはサウジアラビア・UAE連合軍といっていい。

 このイエメンへの軍事介入で、両国は当初こそ一体的な行動を取っているようにみえた。だが、徐々に足並みの乱れが目立ってくる。

 例えば、サウジアラビアとイランの対立はよく知られている。一方、UAEは、政治的にはイランと良好な関係にあるとは言い難いが、経済的には深く結びついている。対イランで、サウジアラビアとUAEの間には明らかな温度差がある。

 さらに問題なのはイエメン国内での動きである。上述のとおり、サウジアラビアとUAEはイエメンへの軍事介入で同盟国であり、行動を共にしてきた。しかし、イエメンにおける最近のUAEの動きは明らかにサウジアラビアの利害と一致していない。いや、サウジアラビアどころか、肝心要のイエメン正統政府の利益にすらなっていないのだ。

 UAEは確かに正統政府を支援する有志連合の一員だが、実際にUAEが支援していたのは南部分離独立派(南部移行評議会)だったのである。同派は、正統政府の中にいながら、それと対立する勢力だ。

 この南部分離独立派は、あろうことか正統政府の拠点であるイエメン南部の暫定首都アデンから正統政府を駆逐してしまった。南部分離独立派の事実上の軍事部門である「治安ベルト部隊」に対し、UAEは装備・訓練共に提供していた。さらにUAEはイエメン南方に浮かぶソコトラ島を事実上軍事占領してしまった。

 明らかにUAEは、サウジアラビアとは異なるアジェンダでイエメンに介入していたのである。トランプ政権時代の米国の国防長官、ジェームズ・マティス氏はUAEを「リトル・スパルタ」と呼んだ。確かに言い得て妙かもしれない。UAEは小さな体に似合わず強大な軍事力を持ち、政治・安全保障の面で独自路線を進んでいる。

サウジとカタール急接近で、孤立感高まるUAE

 もう1つの視点は、エジプトで生まれたイスラム主義組織「ムスリム同胞団(以下「同胞団」)」に対する立場である。UAEは同胞団をテロ組織として弾圧してきた。サウジアラビアもUAEに同調するかたちで同胞団をテロ組織に指定している。しかし、同胞団に対するサウジアラビアの態度は実際にはアンビバレントで、UAEほど単純ではない。

 他方、カタル(以下、カタール)が長年、同胞団を戦略的に支援してきたことはよく知られている。そして、サウジアラビアやUAE、バハレーン(以下、バーレーン)、エジプトは2017年に、同胞団を含むテロ組織を支援したとしてカタールと断交した(いわゆる「カタール危機」)。少なくとも「反同胞団」を軸にみれば、サウジアラビアではなくUAEがカタール断交のイニシアチブを取っていたといえる。

 サウジアラビア・UAEなどは、このカタール危機を解決する条件としてカタールに対し(1)テロ支援の停止や(2)アル・ジャジーラ放送の閉鎖など13項目を要求していた。今年1月にクウェートなどの仲介でカタール危機は解決した。ここで重要なのは、カタールが上記13項目の要求を受け入れたかどうか明らかになっていない点だ。その後もカタールは従来の政策を実際にはそれほど変えずに継続しているようにみえるので、受け入れていないという説は説得力がある。

続きを読む 2/2 UAEが孤立するシナリオへ

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