中国の統一大学入試「高考」の様子。受験生にとっても、その親にとっても一大イベントだ(写真:AFP/アフロ)
中国の統一大学入試「高考」の様子。受験生にとっても、その親にとっても一大イベントだ(写真:AFP/アフロ)

 中国共産党は、政治、経済、社会のすべての面で管理を強めている。これは習近平(シー・ジンピン)政権が「党の指導」を格段に重視し、党による管理の強化を目指していることと関係している。

 実を言うと、共産党は1980年代に改革開放政策が定着するまで、中国社会を見事なまでにコントロールしていた。国民は、大学、職場、住宅など、すべて党=政府が決めたところに行くしかなかったからだ(「統一分配」)。

 農村では人民公社がすべてを管理していた。国民には政府の言うことを聞く以外の選択肢はなかった。おかげで党=政府の決定や指導者の重要講話は、職場などでの学習会で全国民に周知された。

 ところが改革開放が進み、これらすべてにおいて、国民は行き場所を自分で選択できるようになり、自由な空間が急速に拡大していった。しかも多くの国民は、党の宣伝部門の公式な発信は読まないし見ない。「党の指導」の及ばない空間が急拡大したのだ。これを習近平政権は、可能な限り元の状態に戻したいと考えている。

 そのために、まず共産党自体の管理を強化し、トップの意向を末端まで行き届かせるよう制度や仕組みの改革を進めた。その重要な手段として、ルールを細かく決め、それを守らせる管理監督のメカニズムをつくった。同じやり方で、今度は経済と社会を管理しようとしている。

「ノー」と書かれていなければ何をしてもよい社会

 法令規則に関する感覚は、日本人と中国人で全く異なる。日本では、規則がないとどうしていいか分からず動けない人が多い。これに対して中国では、ノーと書かれていなければやってよいと理解する。グレーゾーンにもどんどん踏み込む。米国人も似たようなものなので、中国の方が国際スタンダードに近いのかもしれない。

 しかも、経済があまりに急速に発展するものだから、当局による制度構築や法令規則の制定は後追いにならざるを得ず、いつも後付けの対応となる。日本のように政府が審議会を設置し、じっくり練り上げ、制度や法令規則をつくるのとは訳が違う。アリババやテンセントといったIT(情報技術)・ネットサービス産業が、その典型だ。彼らが激烈な競争を勝ち抜いて新たな事業形態をつくりだし、それに合わせて当局が制度をつくるということを繰り返してきた。

 利益が出そうだとなると、参入者が殺到する。少数の者が生き残り、大多数は淘汰(とうた)される。生き残った企業は、日本企業を凌駕(りょうが)し、世界のトップに立つ力をつける。つまり中国は平均で判断してもダメだ。業界の平均を見れば常に日本に劣る。しかし生き残った企業は桁違いに優秀なのだ。われわれの競争相手は生き残った企業であって平均の中国企業ではない。そして、生き残った企業が中国の業界のあり方、それに沿った仕組みまでつくり上げる。ただし、業界中心につくり上げられた仕組みが、政府や国民から見て最適とは限らない。

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