WTOのオコンジョ新事務局長は、新型コロナワクチンの製造・供給拡大を喫緊の課題に据えた(写真:AFP/アフロ)
WTOのオコンジョ新事務局長は、新型コロナワクチンの製造・供給拡大を喫緊の課題に据えた(写真:AFP/アフロ)

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 ンゴジ・オコンジョ=イウェアラ氏は、改革の舞台をナイジェリアからスイス・ジュネーブに移し、事務局長として現在進行形の世界貿易機関(WTO)改革に臨んでいる。なぜ今、WTO改革が必要なのか、WTOは何を改革しようとしているのか、について解説する。さらに、これがWTO事務局長として現在進行形で取り組む組織改革にどう生かされているのかを見ていきたい。

 現在の国際情勢は、かつてのように自由貿易主義やグローバリズムをナイーブに信奉することをもはや許さない。WTOは2020年に創設から25年を超えた。だが祝賀ムードにはほど遠かった。WTOが制度疲労を起こしているのは明らかだからだ。

 2001年に始まった多角的貿易交渉(ドーハラウンド)は停滞し、新興国の台頭やデジタル経済の進展に対応できていない。補助金など国内で講じた措置をWTOに通報しない国や、加盟時に獲得した弱者優遇の恩恵を手放さない「自称・途上国」の跋扈(ばっこ)を許している。

 現在のWTOは、補助金やデジタル経済をめぐるルールについて、(1)交渉・立法、(2)順守・監視、(3)紛争解決、という3大機能が十分に機能していない。運動競技にたとえれば、ルールブックが古く、選手のラフプレーはやすやすと見過ごされ、審判が笛を吹けない、という三重苦にある。

空白と曖昧さゆえルールが機能しない

 それぞれの機能を回復するための改革の現状は次のとおりだ。

(1)ルールブックを新しく(交渉・立法)
 新しいルールを導入し権利義務関係を定めることは、すべての加盟国が身を切る覚悟が必要となるため、合意に至る道のりは決して容易ではない。

 デジタル経済のルール作りは、その最たる例だ。第11回WTO閣僚会議(2017年)で議論が始まった。この取り組みは、WTOの原則である全会一致(コンセンサス)方式を初めからあきらめ、有志国のみの合意で進めるプルリ枠組みを目指す。

 現在86カ国が交渉に参加している。インドや南アフリカなどは交渉に参加していない。参加国の中でも、3つの立場がせめぎ合う。当局の強い規制権限を求める立場、プライバシー保護や企業間の競争を求める立場、イノベーションや自由化を求める立場の3つだ。日本は共同議長としてこの交渉をけん引している。

続きを読む 2/4 (2)選手にルールを守らせる(順守・監

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