WTOの新たな事務局長に就任したオコンジョ氏(写真:ロイター/アフロ)
WTOの新たな事務局長に就任したオコンジョ氏(写真:ロイター/アフロ)

 改革の必要性が叫ばれて久しい世界貿易機関(WTO)のトップに、今年3月、ンゴジ・オコンジョ=イウェアラ氏が就任した。大混乱した同氏の選出劇を記憶されている読者の方も多いだろう。

 その決定は昨年から今年へと、米大統領選挙の行方とともに越年した。WTOに加盟する164カ国・地域のほとんどがオコンジョ氏(正式な姓は長いので、便宜上、省略する)を推す中、米国のトランプ政権(当時)が反対したからだ。しかし、多国間協調への回帰をうたうバイデン新政権が今年1月に発足。その後2週間あまりで前政権の立場を変更した。これで大きな障壁がなくなり、オコンジョ氏が韓国の対抗馬を退けた。

途上国出身かつ女性初のWTO事務局長が誕生

 オコンジョ氏は、途上国出身かつ女性初のWTO事務局長だ。これまで世界銀行の専務理事、母国ナイジェリアの財務相・外相を歴任。最近は、新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐ活動として一躍脚光を浴びた「Gaviワクチンアライアンス」の理事長も務めた。

 同氏の輝かしい経歴を眺めるうちに、この人物は改革派・国際派・交渉家であるが、決して「貿易屋」ではないことに気がついた。WTOの歴代事務局長、そして事務局長のいすを今回争った候補が全員、貿易に通暁したプロ中のプロだった。にもかかわらず、貿易に関しては素人の同氏が「自由貿易の門番」の船頭に就いた。

 この事実は、世の中の「改革」に関する一面の真理を突いているように思う。すなわち、部外者(アウトサイダー)こそが組織や風土を改革できるのだ。改革者の素養は、全体を俯瞰(ふかん)し本質を理解する地頭(じあたま)の良さ、しがらみのなさ、前例や慣行にとらわれない創造的な手法――にある。この極意は、世の中で「改革」と名のつく物事に広く応用できるのではないだろうか。行財政、経営、機構、働き方など、改革の対象を選ばないと思われる。

 オコンジョ氏は、約30年に及ぶ軍政の後、初めて民選された母国ナイジェリアの大統領に請われ、半年だけ経済顧問を務めた。その後、しばらくあって4年間(2003~2006年)、ナイジェリアの財務相を本格的に務めた。退任後、財政崩壊、汚職、対外債務超過にあえぐ母国の全面的改革を断行したときの教訓を回顧録『Reforming the Unreformable(改革不可能なことを改革する、著者仮訳)』にまとめている。副題に「ナイジェリアからの教訓」とあるのは、本書が改革実践者向けの指南書であることを示す。人は経験からしか学べない。

 本稿は、まず同氏が母国の財務相として奮闘した4年間を振り返る(前編)。続いて、その経験を凝縮した「改革10カ条」を玩味した上で、WTO事務局長として現在取り組む組織改革にそれらをどう生かしているのかを解説したい(中編)。そして最後に、WTOが今日抱える問題を概観しよう(後編)。

続きを読む 2/2 4本柱からなるナイジェリアの国家改造を陣頭指揮

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

残り2001文字 / 全文3312文字

日経ビジネス電子版有料会員になると…

特集、人気コラムなどすべてのコンテンツが読み放題

ウェビナー【日経ビジネスLIVE】にも参加し放題

日経ビジネス最新号、10年分のバックナンバーが読み放題

この記事はシリーズ「世界展望~プロの目」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。