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欧州議会が7月16日、ドイツのフォンデアライエン国防大臣を次期EU委員長として承認した。女性のEU委員長就任は初めて、ドイツ人の就任は約半世紀ぶりだ。ブリュッセル生まれで英語・フランス語にも堪能な国際派だが、ドイツの経済界ではフォンデアライエン氏の将来について、3つの不安が指摘されている。

フォンデアライエン次期EU委員長はマクロン仏大統領の意向をくんだ政策を遂行するのか(写真:Abaca/アフロ)

 3つの不安の中で最大のものは、フォンデアライエン氏が、所属するドイツの保守政党キリスト教民主同盟(CDU)の伝統的な路線を逸脱し、「左傾化」した政策を打ち出したことだ。欧州議会での採決前に行った演説の中で明らかにした。

ユーロ圏の政策をめぐり柔軟性を重視?

 特にドイツの経済界や学界に強い不安を与えたのは、フォンデアライエン氏が欧州通貨同盟に触れた部分だった。彼女は「ユーロ圏の収斂(しゅうれん)と競争力のための予算枠を作りたい。これは加盟国の経済成長と投資を促進するためのものだ。ユーロ圏の加盟国は安定成長協定を守らなくてはならないが、この協定には柔軟性を許す部分もある。私は協定の柔軟性をフルに活用することによって、現在よりも経済成長を重視するシステムを導入する」と述べた。

 これは、フランスのエマニュエル・マクロン大統領やギリシャ、イタリアなど南欧諸国が主張してきた政策である。フランスと南欧諸国は、2009年にギリシャで債務危機が表面化して以来、過重債務国に歳出削減や国有企業の民営化などを求めるだけでは不十分であり、経済成長を促すためにEUは財政出動も行うべきだと主張してきた。これに対しドイツなど欧州北部の国々は、過重債務国が緊縮策を実行することによって財政状態を健全化し、自力で競争力を回復することを求めてきた。

 フォンデアライエン氏が「競争力のための予算枠を作る」と言っているのは、マクロン氏の主張通りだ。欧州理事会でフォンデアライエン氏を推挙したのは、マクロン氏だった。このためフォンデアライエン氏は演説の中で、フランスの主張をなぞるような政策を打ち出したのである。

 これまでEUの中で英国は、財政出動よりも南欧諸国の自助努力を重視し、欧州閣僚理事会の採決などでドイツのために援護射撃をすることが多かった。しかし今後EU内の力関係は変化していく。英国が遅くとも10月31日にはEUを離脱する可能性が刻一刻と高まっているからだ。BREXIT(英国によるEU離脱)後、EU内ではドイツなど北部の国々の立場が弱まり、逆にフランスと南欧諸国の影響力が強まると見られている。フォンデアライエン氏の演説は、BREXITが誘発するEU勢力図の変化をも象徴する内容だったと言える。