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トランプ陣営がオクラホマ州タルサで開いた選挙集会は、空席の目立つ寒々としたイベントに終わった(写真:AP/アフロ)

 ドナルド・トランプ大統領の支持率低下が止まらない。日本語メディアでは早くも、「米大統領選、民主バイデン候補の優位が揺らぎそうにない理由」「トランプ氏の支持率、経済運営でもバイデン氏に抜かれる」「バイデン氏の優位歴然、州レベルの世論調査を分析」といった推測記事が流れ始めた。だが、本当なのか。投票3カ月前の世論調査が参考情報でしかないことは、4年前にヒラリー・クリントン候補が「予想外の敗北」を喫したことからも明らかだろう。

 確かに世論調査は有力な判断材料だが、当然、当たり外れがある。しかも、選挙キャンペーンは生き物だ。特に、米大統領選は規模も活動範囲も半端ではない。民主・共和両党の選挙対策本郡(以下、選対)が組織として、分裂することなく、一つの政治目的のため有機的に機能するか否か。過去40年間、選挙結果を占う上で筆者が最も重視してきたのがこの視点だ。そこで今回はトランプ選対の内部に焦点を当てつつ、今秋の大統領選を占ってみよう。

選対本部長交代で混乱するトランプ陣営

 6月20日、トランプ陣営はオクラホマ州タルサで数万人規模の選挙集会を企画した。新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)騒ぎで中断していた選挙キャンペーンの再開を華々しく打ち上げる、はずだった。前評判では10万人、いや100万人集会だと喧伝(けんでん)されたが、蓋を開ければ、何と参加者はわずか6200人。空席の目立つ寒々としたイベントに終わった。当時の選対本部長はブラッド・パースケール氏、トランプ氏が激怒したことは想像に難くない。

 7月15日、トランプ氏はパースケール本部長をデジタルキャンペーン部長に降格させ、ビル・ステピエン副本部長を昇格させた。新本部長は共和党ストラテジストとして長年活動し、2016年8月からトランプ陣営に参加。ホワイトハウスで政治部長を務めた後、2018年12月からトランプ再選選対に加わった人物だ。普通なら、長い選挙戦ではよくある信賞必罰の人事異動にすぎないところだが、実はこの話、もっと根が深そうである。

SNSで笑う者はSNSに泣く

 パースケール前本部長は2016年トランプ陣営のソーシャルメディア戦略を成功させた立役者。もともとはインターネットのウェブデザイン業者で、2011年からトランプ系企業のウェブサイトを担当。2016年にはトランプ陣営のデジタルメディア部長に就任した。今回、選対本部長に就任したのは、トランプ氏の息子エリック氏とも親しいうえ、前回大統領選挙でのデジタル発信を含むメディア戦略全般とオンラインによる献金集めに成功したことがトランプ家に評価されたようだ。

 ところが、そのパースケール氏が前述のオクラホマ州タルサで大失敗してしまう。トランプ選対はネット上で出席予約を受け付けた。これに対し、10代の若者のネットワークが各種SNS(交流サイト)などを通じ無料入場チケットを「大量偽予約」して、実際には出席しなかったらしい。この新手の「集会ボイコット」作戦は大成功。「SNSで笑う者はSNSに泣く」を地で行く大失態を演じたパースケール氏はあの晩、恐らく一睡もできなかったのではないか。

 パースケール氏の失敗はこれだけではない。トランプ選対の戦術は今回も、「ラストベルト」と呼ばれる中西部の疲弊した工業地帯で暮らす白人労働者層の不満を吸い上げる一方、SNSを駆使して真実を歪曲(わいきょく)し、ワシントンの「影の政府」につながる勢力と戦うアウトサイダーをトランプ氏が演じることだといわれる。でも、それでは2016年大統領選時の戦術を、一種の成功体験として、今年も踏襲しているだけではないか。