
EU(欧州連合)は、これまでタブーだった共同債を例外的に発行して異例の「借金」を行うという歴史的な措置に踏み切る。だが新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)で激しい被害を受けた国々に対する援助金は、欧州北部の国々の反対のため、大幅に減らされた。首脳会議が一時決裂の崖っぷちに立たされた事実は、新型コロナ危機という緊急事態においても、一部の国々が欧州の連帯ではなく自国の利益を優先する現実を浮き彫りにした。
戦後最大の支援パッケージ
「Deal!(合意した!)」。欧州理事会のシャルル・ミシェル議長は、このメッセージを7月21日午前5時31分(ブリュッセル現地時間)にツイッターで発信し、27人のEU加盟国首脳たちが合意にこぎ着けたことを全世界に知らせた。フランスのエマニュエル・マクロン大統領も「今日は、歴史的な日だ」と語った。
確かに合意内容は画期的である。約1兆8240億ユーロ(約220兆円)の支援パッケージは、第2次世界大戦後の欧州で最大の額だ。このうち1兆740億ユーロ(約130兆円)はEUの今後7年間の予算枠の中から前倒しで支出する。その中にはデジタル化や地球温暖化を防ぐための投資など、欧州の経済成長を促進するための支出も盛り込まれた。残りの7500億ユーロ(約90兆円)は、新型コロナ危機がもたらした経済的損害の悪影響を緩和するとともに、将来のパンデミックに対する抵抗性を強化するための「復興基金」だ。
EUが初めて「借金」し「共同債務同盟」に至る道ひらく
この基金のユニークな点は、EUが一種の共同債を初めて発行して、国債市場で「借金」を行い、7500億ユーロを調達することだ。EUがこのような形で資金を調達したことは、今まで一度もない。
これまではEU加盟国が個別に国債を発行して、借金をしてきた。EUという豊富な資金力と高い信用性を持つ大所帯が国債を発行すれば、各国がばらばらに借金をするよりも、はるかに有利な条件(つまり低い利回り)で資金を調達できる。多くの南欧諸国では新型コロナ危機のために財政状態が悪化しているので、これらの国々が個別に国債を発行しようとすると、投資家は高い利回りを要求するかもしれない。その意味で、EUが南欧諸国に代わって資金を調達すること自体が、すでに間接的な支援策である。
EUは2028年から30年かけてこの借金を返済する。そのために新しい税金を導入する予定だ。例えばリサイクルできないプラスチックに対する課税や、デジタル取引税、二酸化炭素の削減努力が十分でない国が輸出する製品に対する気候関税などを検討している。EUは、いわば「共同債務同盟」に至る前例を作ったわけである。
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