被災地を訪れた独大統領がスピーチをする間、次期首相候補のラシェット氏は側近と談笑していた(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
被災地を訪れた独大統領がスピーチをする間、次期首相候補のラシェット氏は側近と談笑していた(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 ドイツ西部で7月14日、大規模な洪水が発生した。ラインラント・プファルツ(RP)州とノルトライン・ヴェストファーレン(NRW)州を中心に183人が死亡し、150人が行方不明になっている(7月24日時点)。死者・行方不明者合わせて333人という数字は、1962年にドイツ北部を襲った洪水での死者(340人)に次ぐ。これまで自然災害による死者が比較的少なかったドイツにとって、今回の犠牲者数は異常に大きな値だ。

被災地に急行したラシェット首相候補

 特にRP州のアールヴァイラー郡ではアール川という中規模河川が瞬く間に増水。この町だけで132人が死亡した。多くの民家が倒壊し、多数の自動車が水没。同郡だけで、75の橋が全壊または激しい損傷を受けた。ドイツ保険協会(GDV)は、建物や家財の被害に関する支払保険金額が40億~50億ユーロ(約5200億~6500億円)と過去最高に上る可能性を指摘。鉄道、道路、通信網などの復旧には数10億ユーロの費用がかかる見通しだ。

 ドイツでは自然災害が起きたときの政治家の対応が、選挙結果に大きく影響する。NRW州の首相であるラシェット氏は、そのことを良く理解している。同氏は、洪水が発生した翌日の7月15日には同州のハーゲン市とアルテナ市を訪れ、視察の模様をカメラマンたちに撮影させた。予定していたバイエルン州への出張は、キャンセルした。

 ラシェット氏はジャンパーに長靴姿で「我々は被害を受けた住民たちを見捨てない。まだ被害の全容は判明しておらず、どれだけの支援が必要かは分からないが、我々は被災者と連帯する」と述べ、市民たちに救援の手を差し伸べると約束した。

 同氏は被災地を訪れて、市民に支援を約束した最初の政治家となった。アンゲラ・メルケル首相はこのとき、米国のジョー・バイデン大統領と会談するため米ワシントンを訪れていた(メルケル首相は米国から帰国した直後の7月18日にRP州の被災地を訪れている)。

「現職ボーナス」でライバルに水をあけた

 ドイツの政治家は、気象災害と地球温暖化を結び付ける傾向が日本の政治家よりが強い。ラシェット氏も被災地での記者会見で「集中豪雨と干ばつが増えているのは、気候変動の結果だ。今回の水害のような事態は、将来も起こると考えるべきだ。我々は、気候変動に対処するための政策を全世界で加速しなくてはならない」と述べ、二酸化炭素の排出量削減に向けた政策に力を入れると強調した。同氏は、ドイツ人の間で気候変動をめぐる懸念が強まり、経済や社会の脱炭素化への関心が高まっていることを念頭に置いているのだ。

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