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英保守党の党首を選ぶ選挙をジョンソン氏が制し、首相に就任した。英国政治に詳しい細谷雄一・慶応義塾大学教授は、次の焦点は「10月31日までに3回目の延期を決めるかどうか」になるとみる。決められなかった場合、英国はその国政(コンスティチューション)が想定しないような危機に陥る。その様相は戦前の日本を苦しめた「統帥権」をめぐる状況にも似る。(聞き手 森 永輔)

発言の変更をいとわないジョンソン氏は、どの方向に綱を引っ張るのか(写真:ロイター/アフロ)

英国の与党、保守党の党首選(決選投票)の結果が7月23日に発表され、ボリス・ジョンソン氏が勝利。翌24日に新たな首相に就任しました。「EU離脱(Brexit)」の行方がどうなるのかが注目されます。

 まずは選挙の結果について、ジョンソン氏が党員票の3分の2を獲得したのをどう評価しますか。

細谷:予想通りの結果と言えるでしょう。

 「予想通り」には2つの意味があります。1つは、保守党員の7割が「合意なき離脱」を支持していると言われており、これを実行しようとしているのがジョンソン氏。この結果を見る際に注意すべきは、(A)英国の世論と(B)保守党の下院議員の見解、そして(C)保守党員の見解は、異なることです。今回は、およそ16万に上る(C)の支持を反映したものに過ぎません。

細谷雄一(ほそや・ゆういち)
慶応義塾大学教授
専門は国際関係論、イギリス外交史。慶応義塾大学大学院法学研究科政治学専攻博士程修了(法学博士)、英国バーミンガム大学大学院で国際関係学修士号を取得(MIS)。北海道大学や敬愛大学の専任講師、米プリンストン大学やパリ政治学院で客員教授などを務めたのち、2010年9月から現職。(写真:加藤 康、以下同)

 この16万人は保守党の下院議員の多数よりもかなり右に寄っている、非常に偏ったイデオロギーを擁する人々で、メイ首相がEUと合意した離脱協定にはかなり厳しく批判していました。したがって、協定を支持していた対抗馬であるジェレミー・ハント外相が勝つのは難しかった。同氏はもともと「残留」が持論。メイ政権では、同首相が妥結したEUとの合意を支持してきました。

 党員の属性を見ると、その約半数は年齢60歳以上、97%が白人、7割以上が男性と、極端に偏っています。その意見は6600万人いる英国人全体の世論とは大きなずれがある。しかし、このほんのわずかの人びとが、英国の首相を決めてしまったわけです。

 「予想通り」と考えるもう1つの理由は、今後想定される総選挙をにらんで、保守党が「勝てる党首」を選んだからです。世論調査を見ると、保守党の支持率は第4位。支持層が重なるブレグジット党、中道政党の自由民主党はおろか、労働党にも負けています。この状態から巻き返すためには、ハント外相よりも「選挙に強い」と言われるジョンソン氏を選ぶことが政治的に合理的です。

 ジョンソン氏は発言にぶれがあり、政治家としての資質や信頼性には深刻な懸念が見られます。しかし、保守党はそうした懸念をとりあえず脇に置いて、何よりも選挙に勝てる“顔”を選択したのです。すなわち疑念を抱きながらもジョンソン氏を支持した議員の多くは、国益や経済の安定性を犠牲にして、自らの議席を守る目的で、ポピュリズム、大衆迎合に走った。