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香港の今。「香港国家安全維持法の運用の下で行政運営の実験的な取り組みを重ね、失敗を経験しつつ、落としどころを探っていくのだと思います」(瀬口清之氏)(写真:ロイター/アフロ)

 今日は2つのことをお話ししたいと思います。第1のテーマは中国のマクロ経済の動向。2020年4~6月期の経済指標が明らかになりました。これを振り返るとともに、下期の展望についてお話しします。中国のエコノミストの多くは年後半の実質GDP(国内総生産)成長率が5~6%に達すると予測しています。これは新型コロナウイルスの感染拡大を機に失速した経済が巡航速度に回復することを意味します。世界中がマイナス成長から抜け出す見通しが立たない状況が続いている中、これは驚異的なことです。

 第2は香港国家安全維持法をめぐる動向です。香港通に聞くと、中国政府の主眼は治安維持にあり、一国二制度は堅持する意向です。そして、日本ではあまり報じられていない、治安維持とは異なるもう1つの隠れた意図「反腐敗運動の徹底」についてお話しします。

コロナ休業で雇用と所得が落ち込み、消費はまだ弱い

瀬口 清之(せぐち・きよゆき)
キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹
1982年東京大学経済学部を卒業した後、日本銀行に入行。政策委員会室企画役、米国ランド研究所への派遣を経て、2006年北京事務所長に。2008年に国際局企画役に就任。2009年から現職。(写真:丸毛透)

 まず2020年4~6月期の経済を振り返りましょう。ご存じのように、実質GDPの伸び率は前年同期比プラス3.2% 。1~3月期に同マイナス6.8%と大きく落ち込んだものの、急速な立ち直りを見せました。

 中国のエコノミストたちはこの数字を「想定の範囲内」と評価しています。彼らの多くは2~3%と予想していました。私は「2%を切ることもあり得る」と見ていたので、3.2%は予想を上回る高い値でした。GDPの約60%を占める消費がまだ弱いものの、政府が景気刺激のためにテコ入れしているインフラ建設の高い伸びに加え、金融緩和を背景に不動産投資も拡大し、投資が成長率の回復を牽引した構図です。

 消費の動向を示す消費財小売総額は4~6月に同3.9%減 。1~3月の同19.0%減に比べればかなり回復してきてはいますが、依然として前年同期を下回る状況です。掘り下げると、やはり新型コロナ関連の業種が厳しい状態にあります。飲食や旅行などのサービス、モノでは衣料や宝飾品などの回復が遅れています。飲食はやはり外食産業が打撃を受けています。日本でいうウーバーイーツのようなデリバリーサービスが普及していますが、レストランなどでの「リアル」の外食の落ち込みを補う力は十分ではありません。中国のウーバーとも呼ばれる配車サービス大手の滴滴出行(DiDi)に登録するドライバーの平均収入は、新型コロナ危機が起きる前の半分ほどにへこんでいます。

 消費が失速する原因の1つは雇用にあります。4~5月は多くの工場が休業、あるいは生産を再開しても稼働率が低く、正社員であっても収入が減りました。一時雇用の労働者の場合、契約を切られるケースもありました。これらが、可処分所得同1.3%減(1~6月) という数字に表れています。