金正恩が、国賓として訪米する日は訪れるか(写真:ロイター/アフロ)
金正恩が、国賓として訪米する日は訪れるか(写真:ロイター/アフロ)

 ついに北朝鮮が改正された憲法の内容を発表した。最高人民会議第14期第1次会議で憲法を改正したことを2019年4月11日に発表していたが、内容を明らかにしていなかった。内容を対外的に明らかにしたのは7月11日であった。改正の発表と内容の公表にタイムギャップがかなりあるのは、金正恩(キム・ジョンウン)時代の北朝鮮では珍しくない。

北朝鮮が改正憲法を公開した

 金正恩時代になってから北朝鮮の情報公開はかなり進んだ。もちろん、自由民主主義国家に比べれば相当に閉鎖的であるが、それでも以前に比べて格段に進んだことは間違いない。

 ただし、憲法を改正しても、かなり遅れて内容を発表するようになった。これからもそうなるだろう。それは内容を公表しなくても、国家運営に支障がないからである。北朝鮮は、朝鮮労働党による一党独裁の社会主義国家であって、法令よりも朝鮮労働党の命令が重要である。改正憲法の内容は、実際には朝鮮労働党の命令によって既に実行されているものが多い。

 ちなみに、金正恩時代になって公開しなくなったものもある。たとえば経済計画である。朝鮮労働党は2016年から「経済5カ年戦略」という経済計画を始めたことを発表している。しかし、内容については、全く公表していない。金日成(キム・イルソン)時代は経済計画の概要をすべて発表していた。金正日(キム・ジョンイル)時代は、発表すべき全国全分野単位の経済計画そのものがなかった。金正恩時代は経済計画の遂行は発表しても概要すら発表しない。

 もっとも「経済5カ年戦略」は、脱北者ルートで手に入れたものを『毎日新聞』(2019年4月21日)と『週刊エコノミスト』(2019年5月7日)が概要を掲載している。非常に重要なものであるので、早く全文を発表してもらいたいものだ。

北朝鮮の憲法は「社会主義憲法」

 北朝鮮の最初の憲法は、1948年9月9日の建国宣言の前日に制定された。実は、正確には、「憲法」を制定したのはこれが最初で最後である。1972年には社会主義憲法を制定した。これを改正(北朝鮮では修正)し続けて、現在に至っている。つまり、現在の北朝鮮に存在するのは「憲法」ではなく「社会主義憲法」である。

 憲法と社会主義憲法は何が違うのであろうか。単純に言えば、社会主義国家の憲法が社会主義憲法であるが、これでは何のことか分かるまい。

 国民国家と社会主義国家の違いを説明する必要がある。国民国家は国民主権であるが、社会主義国家の主権は国民にはない。主権は特定の階級にある。今回改正された社会主義憲法は第4条で「朝鮮民主主義人民共和国の主権は労働者、農民、兵士、知識人をはじめ勤労人民にある」とした。つまり、労働者、農民、兵士、知識人の階級が主権を行使できることになる。他の階級には主権がない。

 1948年に制定した憲法では、第2条「朝鮮民主主義人民共和国の主権は人民にある」になっている。人民や市民というのも階級概念なので、国民とは異なるのであるが、細かく階級を定めずにより広い意味でとらえられるようにしていた。

 しかし、1972年に制定した社会主義憲法は第7条「朝鮮民主主義人民共和国の主権は、労働者、農民、兵士、勤労インテリにある」とし、主権を持つ階級を定めた。「社会主義憲法」は、マルクス・レーニン主義のプロレタリア独裁を朝鮮労働党による一党独裁として体現したものであり、「労働者、農民、兵士、勤労インテリ」がプロレタリアートであって朝鮮労働党のメンバーになれるという理屈なのである。

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