
7月2日に朝鮮労働党中央委員会第7期第14次政治局拡大会議が開催された。党政治局は、政治局常務委員である金正恩(キム・ジョンウン)や崔龍海(チェ・リョンヘ)、朴奉柱(パク・ボンジュ)といった朝鮮労働党の最高幹部によって構成されている重要な組織である。党政治局で討議・決定された内容は、朝鮮労働党全体の方針を決める重要な事柄になる。
しかし、今回は、党政治局拡大会議の討議内容を説明する以前に、そもそも党政治局拡大会議が開催されたことで何が分かるのかを説明したい。
まず党政治局拡大会議の開催回数である。党中央委第7期第14次政治局拡大会議は、報道ベースでは、今年になって3回目の党政治局拡大会議である。第7期というのは、2016年5月6日から9日まで開催された朝鮮労働党第7次大会から、次に開催される予定の党第8次大会までの期間を意味する。第7期第14次というのは、第7期に開催された14回目の党政治局拡大会議という意味である。しかし、党第7次大会以降、党政治局拡大会議の開催は14回も報道されていない。
党第7次大会以降の党政治局拡大会議は、2019年に1回(4月9日開催)の報道があり、2020年の3回と合わせても4回しか報道されていない。つまり、10回分の党政治局拡大会議が報道されていないことになる。仮に、党政治局拡大会議以外の党政治局の会議、すなわち党政治局会議や党政治局常務委員会を数に加えたとしても14回にはほど遠い。党政治局会議が2回、党政治局常務委員会が1回報道されたのみだからである。
北朝鮮分析の難しさの1つは、党大会以外の朝鮮労働党の会議は、開催されているかどうかが報道だけでは分からないことにある。もちろん、党政治局の会議となると、党委員長であり、党政治局常務委員である金正恩が参加しているはずである。ということは、金正恩が参加していても報道されていない会議がいくつもあることになる。
軍人が朝鮮労働党を支配していたことはない
このことから言えることは、2つある。1つ目は、朝鮮労働党には報道されていない会議やその決定が数多くあること。北朝鮮の政治を研究している専門家でもこれを認識していない人たちは案外多い。
特に、韓国には多い。その認識の薄さは、金正日(キム・ジョンイル、金正恩の父)時代の北朝鮮について、「党支配ではなく、軍人支配」と臆測する向きが韓国に多いことに表れている。日本でもその臆測に乗せられた人たちが結構いる。実際には、北朝鮮の軍事組織は金日成(キム・イルソン、金正恩の祖父)時代も金正日時代も朝鮮労働党の統制下にあり、軍人が朝鮮労働党を支配したことはない。
この臆測は、金正日の時代、党会議の開催の報道が非常に少なかったことに根拠をおいている。だが、先に見たように、報道ベースで、党会議が開催されたかどうかを判断するのは大きな誤りを犯す危険がある。実際に金正日時代に党会議がどのように開催されていたのかは、あまり研究が進んでいない。
もっとも、この臆測には、「先軍政治」という朝鮮労働党の方針の解釈の問題もある。もちろん、朝鮮労働党の出版物では「先軍政治」を「軍事優先」(国防政策優先に近い概念)という概念で説明することはあっても、「軍人支配」または「軍人優先」と説明したものは皆無である。にもかかわらず、韓国では、「先軍政治」を「軍人支配」または「軍人優先」と解釈する向きが2000年代後半から急増した。
この原因はよく分からないのだが、おそらく急増した北朝鮮からの亡命者や難民、つまり脱北者にも一因があろう。当時の北朝鮮の社会では、生活物資が不足していたので、兵士たちが「先軍政治」という言葉を軍人優先と恣意的に主張して、配給物資などを一般人から横取りすることがあった。だから、北朝鮮で一般人だった脱北者には、「先軍政治」を軍人優先と考えている向きが時折見られる。もちろん、政治の世界では事情が異なる。軍人が朝鮮労働党を支配していたことはない。むしろ軍人が粛清されたことは数多くある。
金正恩時代になって党会議の開催が数多く報道されるようになると、韓国ではあわてて「先軍政治」から「先党政治」になったとごまかす人がいた。北朝鮮に「先党政治」という言葉は存在しない。もともと「先軍政治」の解釈が間違っていたことに気づいて、ごまかすために「先党政治」という言葉をねつ造したのであろう。
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