米ブッシュ政権で対日外交の一翼を担ったマイケル・グリーン氏が安倍晋三・元首相の死を悼む。グリーン氏は安倍氏を「吉田茂以来、最も重要な政治家」と評する。オバマ政権は当初、安倍氏の対中姿勢を「挑発的に過ぎる」と警戒した。これを好機とばかり、中国は安倍氏を孤立させるべく蠢動(しゅんどう)した。他方、安倍氏がまいたクアッドの芽は、今日、花開いた。「安倍氏ほど米国の対中戦略に影響を与えた人は世界にいない」(グリーン氏)

小泉純一郎首相(当時)は「将来、必ず日本の首相になる」として、安倍氏をジョージ・W・ブッシュ大統領に紹介したという(写真:ロイター/アフロ)
小泉純一郎首相(当時)は「将来、必ず日本の首相になる」として、安倍氏をジョージ・W・ブッシュ大統領に紹介したという(写真:ロイター/アフロ)

 私は安倍晋三さんとそれぞれの政府に属する立場で仕事をする機会に恵まれました。そして、政治学者として同氏を研究の対象にもしました。さらに、同氏が日本の現代史における最も重要な政治家になってからも、信のおける友人として付き合ってきました。

 私がジョージ・W・ブッシュ政権で働いていた2001年6月、小泉純一郎首相(当時)が米キャンプ・デービッドにブッシュ大統領(同)を訪ねました。同首相は、内閣官房副長官だった安倍さんを「将来、必ず日本の首相になる人物です」と紹介しました。

マイケル・J・グリーン。豪シドニー大学アメリカ研究センターCEO(最高経営責任者)。米戦略国際問題研究所(CSIS)シニア・アドバイザーを兼務。米ジョージ・W・ブッシュ政権で国家安全保障会議のアジア担当大統領補佐官兼上級アジア部長などを歴任。(写真:時事)
マイケル・J・グリーン。豪シドニー大学アメリカ研究センターCEO(最高経営責任者)。米戦略国際問題研究所(CSIS)シニア・アドバイザーを兼務。米ジョージ・W・ブッシュ政権で国家安全保障会議のアジア担当大統領補佐官兼上級アジア部長などを歴任。(写真:時事)

 私は安倍さんと緊密に連絡を取り合うよう命じられ、北朝鮮が繰り出す核外交や、米国が日欧に課した鉄鋼関税、日本の捕鯨や台湾の問題について共に対処したことが思い出されます。

 ブッシュ大統領は安倍さんが持つ歴史観にも興味を持ちました。それを理解すべく、同大統領と私は幾度も議論を重ねたものです。

 私は、安倍さんが抱く愛国心、戦略的な現実主義、温かい振る舞いにいつも感動しました。私が結婚式を挙げた晩、安倍さんは電話をくれ、幸せを祈ってくれたのです。私の父が亡くなったときに送ってくれた心打つ手紙は忘れられません。

 安倍さんは共に働く仲間に対して誠実で、それゆえ、周りの人間は「この人をずっと慕っていきたい」と感じたものです。そのことは、インドのナレンドラ・モディ首相や、オーストラリアのトニー・アボット元首相から寄せられた心動かされる賛辞に見ることができます。

日本の大戦略を策定、吉田茂以来の傑出した政治家

 私はこの3月、安倍さんが残した戦略的遺産についての書籍を出版しました。その中で同氏を、吉田茂以来の傑出した政治家と位置づけた。安倍さんは、米国や、民主主義を奉じる他の海洋国家との緊密な関係を前提とする本格的な戦略を打ち立て、その実現に向けて歩みを進めたのです。

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