NATO首脳会議に岸田文雄首相(左から2人目)が参加。ストルテンベルグNATO事務総長(いちばん右)と言葉を交わす(写真:ロイター/アフロ)
NATO首脳会議に岸田文雄首相(左から2人目)が参加。ストルテンベルグNATO事務総長(いちばん右)と言葉を交わす(写真:ロイター/アフロ)

NATO(北大西洋条約機構)が6月下旬、スペインの首都マドリードで首脳会議を開催した。この会議は、まさに「歴史的」という形容詞がぴったりだ。ロシアだけではなく、中国に対しても厳しい態度で臨む新方針を打ち出した。ドイツのショルツ政権は連立契約書の中で日本を重要なパートナーの一国として名指ししている。

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 さて、マドリード首脳会議について注目すべきもう1つの点は、NATOがアジア太平洋地域の友好国の首脳を初めて招いたことである。日本の岸田文雄首相をはじめ、オーストラリア、ニュージーランド、韓国の首脳が出席した。

 マドリードで6月29日に開かれたNATOアジア太平洋パートナー(AP4)首脳会合で、岸田首相は「ロシアのウクライナ侵攻は、国際秩序を根本的に揺るがす言語道断の行為であり、絶対に受け入れられない。ステータス・クオ(現状維持)を一方的に変更する行為は、世界のどの地域においても許してはならない」と述べ、プーチン大統領による侵略戦争を強く非難した。他の3カ国も、岸田首相のコメントに同意した。

日本などの首脳を初めて招待したわけ

 NATOがアジア太平洋地域で民主主義や人権重視などの価値を共有する友好国を初めて招いたのは、中国へのけん制球である。

 今回公表した戦略概念は今回初めて中国について1章を割いた。そのトーンはかなり厳しい。

 NATOは「中国が公にしている野心と脅迫的な政策は、我々の利益、安全、価値への挑戦だ」と述べ、同国に対する警戒心をあらわにした。「中国が公にしている野心」の一例は、台湾統一に軍事力を含むあらゆる手段を用いるという姿勢である。

 戦略概念はさらに「中国は戦略的な意図や現有兵力を曖昧にする一方で、多種多様な政治的、経済的、軍事的手段を使ってグローバルな足跡(フットプリント)を増やし、影響力を拡大しようとしている。様々な手段を組み合わせた中国のハイブリッド戦略、悪意のあるサイバー攻撃、対決的なレトリック(発言)、偽情報の拡散はNATO加盟国にも向けられており、我々の安全保障に悪影響を及ぼす。中国は宇宙、サイバー空間、海洋で国際的な秩序を覆そうとしている」と指摘する。

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