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 しかし、韓国側が仲裁に応じる姿勢を示さなかったため、業を煮やしたのではないでしょうか。韓国政府がG20の前に提案した、同訴訟の原告を救済する新財団の設置は、日本政府にとって到底受け入れられるものではありませんでした。日本政府の立場は解決済みということですから。

 注意したいのは、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権の時に韓国政府は元徴用工の請求権は解決済みとする政府見解をまとめていることです。この政権は文在寅政権の前の進歩派で、文在寅氏も加わっていました。その政府見解を覆しているわけですから、日本政府が文在寅政権に対する不信感を募らせたのは当然かもしれません。

 安倍首相は今回の措置を取ると、G20サミットの時にはもう決めていたのでしょうね。文在寅大統領と並んで握手した時、表情をかなりこわばらせていたのが印象的でした。

 加えて、自民党内から突き上げがあったのだと思います。韓国政府に対する同党内の不信感は非常に強く、一部に「韓国との国交を断絶すべきだ」という意見さえあります。岩屋毅防衛相が6月、韓国の鄭景斗(チョン・ギョンドゥ)国防相とシンガポールで非公式に会談した際、笑顔で握手したとして、激しく批判されたのは記憶に新しいところです。

 振り返れば、李明博(イ・ミョンバク)大統領が2012年、竹島に上陸した時も、自民党内で「制裁せよ」の声が高まりました。日本企業の韓国からの撤退を求める意見もありました。

 7月21日には参院選を迎えます。安倍首相としては党の結束を図るとともに、強いリーダーであることを示す必要があったのでしょう。

参院選が絡むとなると、このタイミングであることがうなずけますね。私は7月18日に注目していました。日本政府は韓国政府に対し、徴用工訴訟に関して、第三国を交えた仲裁委員会を設置するよう要請しており、この日を期限にしています。徴用工訴訟の被告企業が持つ資産の現金化はもちろん、7月18日を待って今回の措置を取っても、参院選対策として間に合いません。

最初の行動で、より大きな効果を狙う

日本政府はなぜ、フッ化水素をはじめとする今回の3製品を選んだのでしょうか。

向山:推測ですが、最初の一手で、より大きな効果を上げようと考えたのだと思います。

 半導体(多くはメモリー)は、韓国の輸出の20%を占める重要製品です。設備投資の面でも、サムスン電子やSKハイニックスなど半導体を生産する企業がけん引しています。コンピューター、スマホ、家電など多くの製品に搭載されています。したがって、この基幹産業の上流を締め上げることは、韓国経済に対して大きなインパクトを与えます。

審査を個別にすることは実質的にどれほどのインパクトがあるのでしょう。日本政府は、原則許可しない方針という報道もあります。

向山:そんなことはしないと考えています。全く許可しなければ、WTO(世界貿易機関)の規定に抵触する可能性もあります。加えて、その影響は、日本企業にも及びます。というのは、半導体製造に必要な材料や化学品、製造装置や計測器などを日本企業は韓国に供給しています。日韓の企業はサプライチェーンで結びついています。日本全体をみても、韓国は3番目の輸出相手国です。

 さらに、韓国企業が生産するDRAMやNAND型フラッシュメモリーを利用する世界中の企業が影響を受けます。もし、そうなれば、日本は世界から批判を受けることになりかねません。