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 6月29日に大阪で行われた日ロ首脳会談は、予想通り平和条約・北方領土について具体的な成果を打ち出せないまま終わった。この会談は、両国間の交渉が迎えた「氷河期」を象徴している。
笑顔で握手を求めるのは安倍首相だけ?(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 会談後の共同記者会見で安倍晋三首相は「私とプーチン氏は、2018年11月にシンガポールで共に表明した、1956年共同宣言を基礎として平和条約交渉を加速させる決意のもとで精力的に平和条約交渉が行われていることを歓迎し、引き続き交渉を進めていくことで一致した」 (6月29日付日経新聞)と述べた。

 またウラジーミル・プーチン大統領も「平和条約問題に関する話をした。日ロ外相同士のセンシティブな問題に関する内容の充実した対話を軌道に乗せたことを確認した。対話は続いていき、これからはロ日関係を質的に新しいレベルに進出させるための地道な作業が進んでいく」と語った。

 だが2人のコメントは、「交渉を続ける」という意志を示すだけで、具体的な内容に欠けると言わざるを得ない。安倍首相自身「戦後70年以上残された困難な問題について立場の隔たりを克服するのは簡単ではない」と述べ、交渉が難しい段階にあることを認めた。プーチン大統領が使った「センシティブな問題」という言葉も、日ロが平和条約と北方領土をめぐって膠着状態にあることを示唆している。

「2島返還」への譲歩も実らず

 安倍政権は「6月のG20サミット後の首脳会談で、平和条約について大筋合意」という目標を達成できなかった。安倍首相は昨年11月に、1956年の日ソ共同宣言を基礎として交渉を加速させることでプーチン氏と合意。政府にとっては、共同宣言が条約締結後の引き渡しを明記している歯舞群島と色丹島に交渉の対象を絞るという大幅譲歩をすることによって、北方領土の返還交渉を加速させるといういわば「捨て身の決断」だった。具体的には、北方領土で共同経済活動を深化させるのをてこに、平和条約の締結に持ち込むことを目指した。

 だがその後の外相レベル交渉は、ロシア側の強硬な態度によって難航した。ラブロフ外相は今年1月にモスクワで行われた河野太郎外相との会談直後の記者会見で「南クリール諸島(北方領土)の主権はロシアに移ったというのが基本的な立場だ。それを日本側が認めることなしに交渉を前進させるのは難しい」。「(南クリール諸島が)日本の国内法で『北方領土』と規定されているのは受け入れられない」と歯に衣(きぬ)着せぬ発言をした。つまりロシアは、北方領土の主権がロシアにあることを日本が認めない限り、交渉の進展はあり得ないという態度を明確に示したのだ。

 またロシア側は、日ソ共同宣言が日米安保条約の改定(1960年)前に採択された点も指摘。同国は、歯舞群島と色丹島が仮に日本側に引き渡された後も、米軍の基地などを展開しないよう保証することを日本側に求めてきた。これも安倍政権にとっては、受け入れがたい要求である。

 このため安倍政権は、G20サミット後の日ロ首脳会談で平和条約について大筋で合意するという野心的な目標の「旗」をわずか4カ月で引き降ろさざるを得なくなった。今年4月中旬には、政権から一部のメディアに「6月合意を断念」という情報がリークされ始めた。サミット直前の5月31日にも、一部の新聞は改めて「2島返還の譲歩は実らず、合意断念」という趣旨の見出しの記事を掲げた。大阪での日ロ首脳会談への期待を下げるための、政府による世論対策である。