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中国の“待ちの作戦”は米国の“耐える力”を過小評価

 中国も余裕しゃくしゃくというわけでは全くない。交渉再開の対価は大きい。3000億ドル分の対米輸出に対する新規制裁は回避したものの、2000億ドル分の制裁関税は5月に10%から25%に引き上げられたままだ。しかも交渉再開は農産品の購入と結びつけられている。ファーウェイもどこまで救済されるかはっきりしていない。習近平国家主席が緊張気味の渋い顔を続けるのも分からないわけではない。

 しかし、この危機を乗り越えれば時間は中国に有利に作用するという確信めいたものはあるようだ。中国は生き残り、今より強くなるという見通しといってもよい。交渉を継続さえしていれば危機にはならない。今の状況をだらだら続けていけば、そのうち米国で変化が起こるという“待ちの作戦”といってもよい。ファーウェイなどの先端企業を全力で守りながら耐え忍ぶことになる。

 この戦略的判断は、1つには、米国は国民の不満を抑えきれないが、中国は可能だという見方に裏打ちされている。経済的打撃がもっと米中の国民に及ぶようになれば中国の方が耐えられるという判断だ。しかしこの見方は、米国民が中国の台頭を真に脅威と見なしたときに示すであろう“耐える力”を過小評価している。ワシントンでは今や、中国がサイバー攻撃などの手段を使って米国の民主主義を壊そうとしているという見方まで出てきている。簡単に中国の方が有利だという結論にはならないのだ。

 2つ目として、中国が最近「自力更生」を強調し始め、米国による締め出しに備えようとしている点を挙げることができる。中国が基本的には自力で今日の宇宙産業をつくり出したことは事実だ。だが、これから加速度的に拡大し深化する技術革新の世界を「自力」だけで生き延びることができるとは思えない。権威主義的な社会においても、上からの指示で知識や技術の「応用」を創新することはできる。しかし全く新しい知識や技術そのものの創新(イノベーション)は、全てのことを疑ってかかり、否定することのできる「自由な精神」がなければ不可能だ。少なくとも現在の中国共産党のシステムは、それを許容していない。

中国における対外強硬派と協調派の争い

 米中対立の激化は、中国国内のナショナリズムを刺激し、対外強硬派の勢いを強めている。中国語で米国は「美国」になる。「恐美派」や「崇美派」を批判する論評も増えてきた。その傾向を強めれば強めるほど自国に対する過大評価に陥りやすくなる。対外強硬姿勢は、南シナ海の軍事化を強め、フィリピンの漁船を圧迫し、尖閣諸島周辺への中国公船の連日の出没となる。2012年以来の中国の対外強硬姿勢が中国と周辺諸国との関係を悪化させ、中国の国際的孤立を招いたにもかかわらず、またそうしようとしている。

 中国国内においても国際協調を求める声は決して小さくはない。しかし、自国の経済的利益を赤裸々に打ち出すトランプ政権の自国第一主義と対中経済制裁は、中国国民の反発を招き、中国国内の国際協調派の立場を損ねている。だがナショナリズムに煽(あお)られて米国のやり方にならい、中国が外国企業を敵味方に峻別(しゅんべつ)して圧迫するならば、多くの外国企業が中国市場から離れることになるだろう。結局、中国のためにならない。

 中国国内も決して一枚岩ではないのだ。だが内政干渉もどきの米国の圧力に屈してぶざまな譲歩もできない。中国のこれからの発展の芽を摘むような米国の抑圧に屈することもできない。中国も狭い範囲でしか動く余地はないのだ。

 米中が、どういう交渉をするかはそれぞれの国内事情が一層大きく影響するだろう。お互いに譲歩は難しい。衝突を避けながら国内向けに説明可能なギリギリの落としどころを探りながらの交渉となろう。

 米中対立を全面的に解決するために払うべき国内的代価は、あまりに大きくなってしまった。全面的解決のためにはより大きなピクチャー、つまり追求する理念を国民に示して妥協の必要性を説き、国民の支持を得る必要がある。トランプ大統領にその理念はない。中国側も世界と協調するためには経済と軍事安全保障面の両方で方向の転換が不可欠であり、党と国民の支持を取り付ける必要がある。そう主張する中国国内の声はまだ小さい。

 それでも、少なくとも交渉は続いているという印象を内外に与え続ける必要はある。米中ともに本当に衝突する気はないのに、不測の事態が本当に衝突を招きかねないからだ。交渉が停滞すれば再度、首脳会談をセットし、それをモメンタムとしながら交渉を続けていくこととなろう。

 憂鬱な将来展望だが、それが新しい現実だと割り切るしかなかろう。日本外交は米中衝突を回避する努力を続け、経済界は最適オプションの再調整をする。それしかないだろう。