米国が対中強硬策を強めている。その攻め手は台湾への関与強化、友好国を巻き込んでの囲い込み、投資規制を強める競争法の制定だ。こうした手を講じる背景には、米国内の深刻な分断がある。
欧州諸国は米国とは距離を置く構え。日本が米国に追随すれば中国市場を欧州企業等に奪われかねない。キヤノングローバル戦略研究所の瀬口清之研究主幹に聞いた。
(聞き手:森 永輔)

瀬口清之・キヤノングローバル戦略研究所・研究主幹(以下、瀬口):今回は、米国と中国との対立がさらに激しくなっている現状をお伝えしたいと思います。
米国が中国への強硬姿勢を強めています。大きく3つの取り組みがあります。
第1は台湾。バイデン大統領は5月23日、岸田文雄首相との首脳会談を終えた後の記者会見で「台湾防衛に軍事的関与(militarily involved)する気はあるか」と問われ、「ある。それが我々のコミットメントだ」と回答しました。
ホワイトハウスはすぐに「従来の政策に変更はない」と反応しました。「米国がこれまで取ってきた戦略的曖昧性を変更する」と中国に取られかねない発言だったからです。
戦略的曖昧性は、台湾有事に軍事介入するかしないかを明確にしない米国の政策ですね。中国には「介入するかもしれない」と思わせることで、その武力統一への動きを抑止する。他方、台湾には「介入しないかもしれない」と思わせることで、独立を目指して中国を挑発することがないよう抑止する。
「戦略的曖昧性をやめ、台湾防衛を明確にせよ」
瀬口:バイデン大統領の発言は、本来ならば重大な「失言」ですが、米国内ではそれほど問題視されていません。それどころか、米国の中国専門家の一部には「戦略的曖昧性をやめ、戦略的明瞭性(clarity)へとシフトすべきだ」との意見もあり、台湾への軍事的コミットを支持する意見が勢いを増しています。「明瞭にする」とはすなわち「台湾を武力で守る立場を明確にする」という意味です。
こうした意見に同調する対中強硬派の議員は「米海軍の軍艦を台湾に派遣するとともに、米軍と台湾軍は合同軍事演習を実施すべきだ」と主張しています。
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