イスラエルで新首相に就任した元IT起業家ナフタリ・ベネット氏は、同国が占領しているヨルダン川西岸地区で暮らすユダヤ人入植者を支持基盤とする右派。イスラエルはネタニヤフ時代よりも右傾化する可能性が強く、パレスチナ問題の平和解決はさらに遠のいた。

退陣が決まったネタニヤフ氏。かつての側近で、新首相となったベネット氏が肩に手をかけて慰める(写真:ロイター/アフロ)
退陣が決まったネタニヤフ氏。かつての側近で、新首相となったベネット氏が肩に手をかけて慰める(写真:ロイター/アフロ)

8党連立でネタニヤフ氏を追放

 6月13日、ナフタリ・ベネット前国防大臣(49歳)が、イスラエル首相に就任した。この日、イスラエル議会で実施された表決により、8つの党からなる連立政権が誕生。12年間にわたって首相を務めたベンヤミン・ネタニヤフ氏は権力の座から追い落とされた。

 ネタニヤフ氏は今年3月23日の総選挙でも、議会の過半数の同意を得て連立政権を樹立するのに失敗した。過去2年間で4回総選挙を実施しても新政権を構成できないという異常事態に、有権者だけでなく政治家たちの間にも反ネタニヤフ機運が高まっていた。

 イスラエルの政局を一変させたのは、中道政党「未来がある(イェシュアティド )」 のヤイル・ラピド党首と、右派政党「ヤミナ 」のベネット党首だった。彼らはネタニヤフ打倒を目指して、8党連立政権を樹立することに成功した。2人の合意に基づき、まずベネット氏が2023年8月まで首相を務め、ラピド氏が外務大臣を務める。その後はラピド氏が首相になる。

軍の精鋭部隊からIT長者に

 ベネット新首相は、ネタニヤフ前首相より20歳以上若い。IT(情報技術)起業家、イスラエル国防軍特殊部隊のエリート兵士、敬虔(けいけん)な正統派ユダヤ教徒、ヨルダン川西岸地区をイスラエルに併合するよう要求する超タカ派という様々な顔を持っている。ダイナミックで常識にとらわれないイスラエル人らしい、マルチタレントの人物が政権を握ったのだ。

 ベネット氏は1972年にイスラエル北部のハイファで生まれた。両親は1967年に米国のサンフランシスコからイスラエルに移住したユダヤ人である。同氏の父親は不動産仲介業者で、仕事のために家族ともども米国、カナダとイスラエルの間を数回往復したが、1982年以降、家族とともにイスラエルに定住するようになった。移民国家イスラエルに、こうした人は珍しくない。

 ベネット氏はハイファで、ユダヤ教の聖典タルムードや聖書(トーラ)を学ぶイェシーバ(一種の宗教学校)に入学したほか、世界最大のシオニスト少年組織ブネイ・アキバにも加わっている。これらの事実から、同氏が若い頃から「正統派(オーソドックス)ユダヤ教徒」と呼ばれる、宗教心が強い人物だったことが分かる。

 同氏は1990年にイスラエル国防軍に徴兵され、6年間にわたり参謀本部直属の特殊部隊サイェレット・マトカル(第269部隊)と、サイェレット・マグラン(第212部隊)に配属された。どちらも敵地に潜入して偵察、人質救出、テロリストの暗殺、破壊工作などを行うエリート部隊だ。ベネット氏は、イスラエル国防軍が1996年に実施したレバノン侵攻作戦にも参加した。少佐を最後に除隊した後、同氏はエルサレムへ向かい、ヘブライ大学で法律を学んでいる。

 ベネット氏はビジネスパーソンとしても成功を収めた。サイバー攻撃から企業などのITシステムを守る専門企業サイオタ(Cyota)を、2000年に米ニューヨークで創設。最高経営責任者(CEO)に就任した。同社のサイバー防護技術はIT業界の注目を集めた。その後、2005年に米国企業RSAセキュリティに1億4500万ドルで買収された。

 このようにしてベネット氏は、巨額の資金を手にした。同氏はその後もイスラエルのIT企業への投資を続け、テルアビブのソフトウエア・メーカーであるソリュート(Soluto)のCEOも務めた。

続きを読む 2/5 2006年のレバノン侵攻作戦で政界入りを決意

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