全4862文字

メルケル政権が5月にロックダウン(都市封鎖)を大幅に緩和して以降、クラスター(集団感染)が多発している。ノルトライン・ヴェストファーレン(NRW)州政府は、ギュータースローなど2つの郡で6月23日から1週間にわたり同国初の地域限定ロックダウンを施行した。これを契機に、首相候補の先頭を走っていた同州のラシェット首相の支持率が低迷し始めた。迅速さを欠いた初動に批判が集まる。

ギュータースロー郡でクラスターが発生した後、周辺住民への検査が行われた(写真:ロイター/アフロ)

 集団感染が見つかったのは、ギュータースロー郡にあるテニエス社の食肉加工センター。7000人が働く、ドイツ最大の食肉加工場だ。保健所が連邦軍の衛生部隊の助けを借りて社員全員にPCR検査を行ったところ、約1500人が陽性反応を示した。同郡が希望する住民に無料でPCR検査を行ったところ、これまでに75人の感染が確認されている。

 このためNRW州政府は、ギュータースロー郡および隣接するヴァーレンドルフ郡について屋内でのイベントやスポーツ、バーや映画館の営業を禁止した他、家族ではない2人以上の市民が集うことも禁じた。これらの郡に住む約64万人の市民の生活が、再び大きく制限された。

 周辺のシュレスヴィヒ・ホルシュタイン州など4つの州政府は、ギュータースロー郡・ヴァーレンドルフ郡の住民がバカンスなどで州内に入りホテルなどに宿泊する際には、PCR検査で陰性であることを示す証明書を提示するよう求めている。ギュータースロー郡の市民の中には、この証明書を持たずに海岸沿いのホテルに行ったために宿泊を拒否された人や、予約したパック旅行をキャンセルした人もいる。

 ボン大学公衆衛生研究所のマルティン・エクスナー所長は、問題の食肉加工場を視察した後の記者会見で、「多数の従業員が、窓がない場所で十分な距離を取らずに働いていた。食肉加工は多くの体力を消費する重労働なので、従業員たちは深く呼吸せざるを得なかった」と述べた上で、「高性能フィルターなしの空調がウイルスを拡散させた可能性がある」と指摘した。

 エクスナー所長によると、テニエス社の作業場では食肉の鮮度を保つため、空調によって気温を6~10度に保っていた。この空調は、作業場の空気を別の部屋に吸い出して冷却した後、作業場に戻す仕組みだ。旅客機内で使われるような高性能フィルターは取り付けられていなかった。一般的に、ウイルスは温度が高い場所よりも、温度が低い場所で感染拡大につながりやすい。

 エクスナー所長は「この加工場では、ウイルスを含んだエアロゾル(気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子と周囲の気体の混合体)が、空調を通じて多くの部屋に拡大した可能性がある。今後は空調に高性能フィルターを取り付けたり、紫外線装置を設置したりすることを提案する」と述べている。

遅れたラシェット州首相の初動

 この集団感染は、アンゲラ・メルケル首相の後継者レースにも影を落とす。メルケル首相が属すキリスト教民主同盟(CDU)と、姉妹政党であるバイエルン州のキリスト教社会同盟(CSU)は、来年に行われる予定の連邦議会選挙までに党首を選出しなくてはならない。党首に選ばれた者が、CDU・CSUの首相候補となる。メルケル首相は、来年の連邦議会選挙以後は政界から引退する方針だ。

 NRW州のアルミン・ラシェット首相(CDU)は、党首候補の1人として正式に名乗りを上げている。他の2人は、フリードリヒ・メルツ元連邦議会院内総務(CDU)と、ノルベルト・レットゲン外務委員長(CDU)だ。まだ正式に出馬宣言をしていないが、バイエルン州のマルクス・ゼーダー首相(CSU党首)と、イェンツ・シュパーン連邦保健相(CDU)も、党首選の直前に出馬する可能性がある。