韓国との関係改善なしに、北のミサイルは探知できない
500発全ての排除を目指すとして、まず問題となるのが索敵を含む情報収集能力ですね。日本が保有する人工衛星だけで、500発が配備された場所や、それが発射される動向を探知できるのか。
香田:それは不可能でしょう。
加えて、人工衛星の情報だけで事足りるわけではありません。最前線部隊や支援組織で使用する携帯電話や無線通信の通話を傍受するシギントや、ミサイル施設で働く人の動向を知るヒューミントといったインテリジェンスも必要となります。これらの異なる、相互には何の関連もなさそうに見える全ての情報を1つの「るつぼ」に投入して、溶けた各個情報の中から関連部分を見つけだして繋ぎ合わせる気の遠くなる作業により、1つの情報成果を作り上げることを「フュージョン」と呼びます。弾頭威力の小さい対地攻撃や巡航ミサイルによる敵地攻撃の場合、命中精度が作戦の成否を決するため、極めて正確なリアルタイム情報が必要なのです。
ミサイル基地への攻撃とは少し異なりますが、フュージョンの一例を示すこんな話を、直接関係した米軍の友人より聞いたことがあります。湾岸戦争で、イラクがクウェートに侵攻したときのこと。米政府は、サダム・フセイン大統領(当時)を巡航ミサイル攻撃により亡き者にする作戦を展開しました。土壇場で方針が変わり、実現には至りませんでしたが。フセイン大統領の居場所を特定するのに真に役に立ったのは衛星から得られる情報だけではありませんでした。携帯電話の通話の傍受や、内部協力者やスパイがもたらす情報、フセイン大統領の身の回りの世話をするメイドの動き――といった情報を総合的に勘案して判断したのです。例えば、メイドさんがフセイン好みの砂糖を準備した、ふだんとは異なる念入りな掃除をしている、などの情報が傍証として役に立ったということでした。
現代の技術社会において特に重要となるのは携帯電話を使った通話情報です。軍用の電話の多くは駄目です。北朝鮮の場合も、軍の指揮管制系の通信には相当に高い水準の暗号が施されていますから。
こうしたインテリジェンスを集めるだけでは十分ではありません。相手は当然、ミサイル能力を防護すべくディスインフォメーション(誤った情報)を流します。これを取り除き、正しい情報を選別する能力も試されます。
いま指摘されたようなフュージョンにより正確なインテリジェンスを得ようと思ったら韓国との協力が必要ではないですか。関係を悪化させている余裕はないのでは。
香田:その通りです。 残り5243文字 / 全文9647文字 「おすすめ」月額プランは初月無料 会員の方はこちら 日経ビジネス電子版有料会員なら 人気コラム、特集…すべての記事が読み放題 ウェビナー日経ビジネスLIVEにも参加し放題 バックナンバー11年分が読み放題この記事は会員登録で続きをご覧いただけます
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