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 専門家の意見を聞かずにプロジェクトを進め現場に負担をかけているとみられる事例は他にもあります。例えば、ヘリ搭載型護衛艦(DDH)「いずも」を、F-35B*を搭載できるよう改修するプロジェクトです。まだ、話題になっていませんが、発着艦を甲板でサポートする要員の養成が大きな負担となります。同機が離陸するときはできるだけ大きな向かい風を必要とします。「いずも」の最大速力(30ノット)で向かい風(仮に10ノット)を利用する場合の合成風速は40ノット、すなわち秒速20mとなります。この小型台風にも等しい強風の中で飛行甲板作業をしなければなりません。このような厳しい環境において、F-35Bの燃料や武器の搭載、そして発艦位置へ誘導をすることは非常に危険で困難な作業です。船のかじを切るだけでも甲板は大きく傾くため、ヘリ搭載艦の新人作業員が夜間に作業しようとしても恐怖で足がすくみ姿勢を一定に保つことすらできなくなります。

*:*:短い滑走で離陸し垂直着陸できる特徴(STOVL)を持つ

 このような艦上作業は、ふだん那覇基地で勤務している航空自衛隊(空自)の地上支援員(列線員)がいきなりできるものではありません。常に艦上で勤務し、動揺する甲板や昼夜の差、悪天候に慣れることが最低条件です。そうでない場合は隊員を危険にさらす恐れがあります。であるにもかかわらず、現在の構想は、空自の作業員を必要なときだけ「いずも」に乗艦させることになっています。このようなやり方では、F-35Bの作戦運用以前に、飛行甲板の列線員の安全確保が大きな問題となって立ちはだかります。海軍の訓練された列線員が作業する米海軍の空母でも、平均的な7カ月の作戦航行期間中に数人、甲板からの転落やジェットエンジンへの吸い込まれなどで殉職者が生じることがあるのです。

長期的には、海上自衛隊(海自)の中にF-35B部隊を設ける必要があるのですか。

香田:搭載することを前提とすれば、空自か海自かはともかく、艦載機専用の部隊(パイロットと戦闘機に加えて、列線員と支援機材で編成)を組織する必要があるでしょう。

やるなら、全てのミサイル能力を殲滅しなければならない

香田:イージス・アショアの配備断念を決定する段取りが拙速との評価を免れ得ない一方で、その善後策として敵基地攻撃能力の議論が始まるのも同様に拙速なジャンプです。

自民党の防衛相経験者の多くはいずれも積極的ですね。党内で議論を始め、7月にも政府に提言する意向です。

 私がこれまでしてきた取材メモをひもとくと、共通するのは「相手国がミサイル攻撃をするとき、防衛するのが最もやさしいのは発射する前か発射した直後のブーストフェーズです。目的が把握しやすいですし、スピードも遅いですから。一方、防衛するのがいちばん難しいのは落下してくるターミナルフェーズ。速度が非常に速い。次に難しいのはミッドコース。弾道の最も高いところです」(小野寺五典元防衛相、関連記事「ロシアのクリミア併合から戦い方が変わった」)という見方です。

香田:その点は確かに正しいのですが、他にも考えに入れるべきことがあります。敵基地攻撃は、やる以上、相手のミサイル能力を殲滅(せんめつ)する必要があります。

 「虎と戦うならば、食い尽くさなければなりません」。虎に余力を残せば、手傷を負った虎は死に物狂いで反撃(第2撃)を仕掛けてきます。その際は、もともと日本向けではなかった弾道ミサイルを日本向けに転換使用する可能性もあります。その場合、攻撃を受けた北朝鮮の反撃は、必ず核弾頭を搭載したミサイルとなるでしょう。それがたった1発でも、迎撃できなければ日本の大都市で数百万規模の犠牲者が生じるのです。

 対地攻撃ミサイル能力の殲滅は技術的にも法的にもハードルが高いと思います。まずは技術面について。防衛省は、我が国を射程に収める弾道ミサイルを北朝鮮が「数百発」実戦配備していると分析しています。仮に総数で500発を保有しているとしましょう。このうち、どれだけが、そして「どれが」日本向けなのか見分けることはできません。よって、敵基地攻撃により北朝鮮の我が国に対する攻撃を阻止しようとすれば、これら全て を殲滅する必要があります。先に述べた理由により撃ち漏らしは、かえって大きな反撃を受けるからです。