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イージス・アショア配備計画を断念することが決まった。自民党はミサイル防衛の維持・強化のため、敵基地攻撃能力の議論を積極的に進める姿勢を示す。これに対し、海上自衛隊で自衛艦隊司令官(海将)を務めた香田洋二氏は「技術的にも法的にも難しい」との見解を示す。それはなぜなのか。議論は、日米同盟における「盾」と「矛」の役割分担や日韓関係も考慮に入れる必要がある。

(聞き手:森 永輔)

巡航ミサイル「トマホーク」の発射。同ミサイルは敵基地攻撃に利用可能とされる( 写真:ロイター/アフロ)

河野太郎防衛相が6月25日、イージス・アショア配備計画を断念すると発表しました。6月15日に配備計画の停止を明らかにした後、同24日に国家安全保障会議(NSC)を開いて断念を決定したとのことです。

香田:何ともずさんで拙速、との印象を受けます。2017年末にイージス・アショア導入を決定したときは、北朝鮮の「火星シリーズ弾道ミサイル」の「乱れ撃ち」という厳しい現実から、ほとんど全ての国民が「イージス・アショアは必要」との認識で一致していたと思われます。あの緊迫感は一体何だったのでしょう。防衛省は当時、その必要性について十分な検討をしなかったのでしょうか。

香田洋二(こうだ・ようじ)
海上自衛隊で自衛艦隊司令官(海将)を務めた。1949年生まれ。72年に防衛大学校を卒業し、海自に入隊。92年に米海軍大学指揮課程を修了。統合幕僚会議事務局長や佐世保地方総監などを歴任。著書に『賛成・反対を言う前の集団的自衛権入門』など。(写真:大槻純一)

 十分な検討とは、プランBやプランCなど次善の策を用意していたか否か、ということです。ブースターの落下のコントロールに問題があるのなら、前回お話ししたように、“イージス・アイアン・ショア”を検討してもよいはずです(関連記事「ブースターは一部、陸上イージスが無理筋なこれだけの理由(下)」)。あるいは、今次顕在化したような制約に捉われない過疎地など他の配備地を選定する選択肢などもあったはずです。

 レーダーを米海軍も使用する「SPY-6」に変更すれば、カタログしかない「SPY-7」を選んだことに起因する不確定性も解決できます。契約を一般輸入から「有償軍事援助(FMS=Foreign Military Sales)」*に変更すれば、最高性能が得られるようになるとともに、価格をより低く抑えられる可能性も出てきます。さらに、運用の継続について米政府の保証も得られます(関連記事「ブースターは一部、陸上イージスが無理筋なこれだけの理由(上)」)。

*:米国政府が安全保障政策の一環として、武器輸出管理法に基づいて同盟国に装備品を有償で提供する仕組み。日本政府と米政府が契約の主体になる

 いま政府と防衛省がすべきは、これまでの経緯を検証、総括し、次に生かす教訓を得ることです。今回の断念を招いた原因の本質は、イージス・アショア自体が抱える問題ではありません。レーダーに「SPY-7」を選定したことに問題があったのです。そのことをきちんと明らかにして、国民に説明する必要があります。ずさんなレーダー選択に起因する全ての問題と矛盾をブースターのコントロール問題に押し付けて、イージス・アショア配備計画を棺桶(かんおけ)に入れ葬り去ったとの印象です。国民を守るべき防衛省がこのようなことをしていてはいけません。

 その背景として、今回の件で防衛省は米側の説明をうのみにし過ぎていた感があります。もちろん同盟国のことは信頼すべきです。しかし、導入する装備の性能、試験方法、納期などについては日本の専門家が参加して検証すべきです。米側の説明に対して日本側専門家からいろいろな疑問が出ることは自然であり、当然です。それを米側に打ち返して再度説明を求めることが当然の手続きです。もし、納得のゆく説明がなされない場合には、計画の一時凍結もできたはずです。防衛省の説明の大半は「米側がこう言っていますが細部は答えられません」に類するものであり、我が国の主体性が全く感じられませんでした。装備をするのは我が国であり、自衛隊なのです。そして自衛隊の現場にはそれができる専門家が間違いなくいるのです。