河野防衛相が6月15日、イージス・アショアの配備計画停止を明らかにした。同システムは、北朝鮮が昨年から頻繁に発射する短距離ミサイルに対処できるのか。朝鮮半島有事は台湾有事につながりかねない。イージス艦の過負荷が続く今、ミサイル防衛専従システムの導入は先送りできない。打開策はあるか。海上自衛隊で自衛艦隊司令官(海将)を務めた香田洋二氏に聞いた。
(聞き手:森 永輔)

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北朝鮮が昨年来、新型の短距離ミサイルを頻繁に発射しています。イージス・アショアはこれに対処できますか。
香田:これについては、新型の短距離ミサイルが持つ脅威と北朝鮮の政策、日本が導入するイージス・アショアシステムの性能の3つの面から説明しましょう。まず脅威について、実は私はあまり心配していません。今年に入って多数発射した短距離ミサイルはそもそも韓国向けだからです。射程と飛翔(ひしょう)形態から、実戦において日本には届きません。
北朝鮮による弾道ミサイル「飽和」攻撃はない
北朝鮮の短距離ミサイルの最大射程を600kmとしましょう。北朝鮮は、北朝鮮中部にミサイル部隊を配備すると考えられます。自己位置秘匿と自隊防護という作戦上の配慮から、南北を分ける軍事境界線から奥まった場所が適切だからです。実戦では、敵部隊からより離れた、安全を確保できる場所に配備するのが常道です。この場合、韓国はすっぽり射程に収まりますが、日本には届きません。
軍事境界線の近くに配備して、ようやく福岡県や山口県に届くことになります。ただし、韓国との関係と戦闘環境を勘案すれば、軍事境界線近くに配備することは考えられません。自分が撃つ前に撃たれる公算が大きくなるからです。
また、低い高度で上昇・下降する不規則な軌道を描くため迎撃が困難と言われている北朝鮮の新型ミサイルは、飛翔経路を制御するのに燃料を多く要するため、射程がその分短くなります。ロシア製の短距離弾道ミサイル「イスカンデル」に酷似しているといわれるものです。
よって、北朝鮮の新型ミサイルが我が国を直接攻撃するというのは机上の空論です。
次に北朝鮮の政策を考えると、保有ミサイルの大多数を日本に向けることはあり得ません。せいぜい3%程度でしょう。北朝鮮が最重要視するのは体制の維持です。よって、北朝鮮が最も注力するのは、朝鮮半島において韓国と“第2次朝鮮戦争”となったときに絶対に負けないこと。それを考えたら、新型短距離弾道ミサイルを含めた保有ミサイルの大半を韓国向けに維持しなければなりません。
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