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プーチンが触れたのに、習近平は触れなかった

 さて、中朝の報道の違いから、習近平の訪朝の成果を推察してみたい。中朝首脳会談について、北朝鮮側の朝鮮中央通信の配信記事は短く、中国側の新華社の配信記事は長かった。つまり北朝鮮側にとって報道したくない内容がより多かったわけである。

 中朝両方の記事を見ると、①②③を中心に話し合ったが、①については両国の見解に違いはなく、②については何らかの合意に至ったようである。しかし、③については意見交換に終わったようで、何か合意したものはないようだ。

 注目されるのは、やはり米朝関係と非核化問題であろう。だが、北朝鮮側の配信記事は特に具体的なことには触れていない。一方、中国側は、少し具体的な内容に触れている。習近平は、朝鮮半島の非核化を促進するための北朝鮮の努力を積極的に評価し、米朝対話を促した上で、北朝鮮が抱える安全保障と開発の懸念を解決するための支援を提供する意思があることを表明した。

 それに対して金正恩は、朝鮮半島問題解決において中国が果たしている重要な役割を高く評価し、中国との協調によって、問題解決の新たな進展と、平和と安定の維持のために努力すると語っている。

 習近平が語った「北朝鮮の安全保障と開発の懸念を解決するための支援」が何を意味するのか気になるが、これ以上の具体的な内容は分からない。ただし、中国側が「安全保障」に触れているのは、やはり非核化のために北朝鮮の安全保障が必要であると認識していることを示している。つまり、18年6月12日の第1回米朝首脳会談後に発表された共同声明にある「北朝鮮に安全の保証を与える」ことを補完する役割を中国が果たす意思を示したと言える。しかし、北朝鮮側はこの支援について全く触れていない。歓迎している様子も見て取れない。

 中朝首脳会談で触れられなかった2つの懸念事項がある。1つは、北朝鮮が米国に要求していた制裁解除である。もう1つは4月25日に開催されたロ朝首脳会談でウラジーミル・プーチン大統領も支持した「段階的な非核化」だ。これらは中朝どちらの報道にも出てこない。ということは、話し合われなかったか、合意がなかったものと思われる。制裁解除も段階的な非核化も米国が明確に反対しているので、G20の米中首脳会談に持ち込むのは望ましいことではないことから、中国側がこの議論を避けたのかもしれない。

一党独裁制がもたらした中朝関係の改善

 北朝鮮で報道された習近平の肩書、つまり「中国共産党総書記・中国主席」は、中朝関係が米朝関係やロ朝関係、日朝関係とは異なることを示している。つまり北朝鮮と中国の関係は、国家の関係よりも、党の関係がより重要なのである。中国共産党と朝鮮労働党は、国家を支配する党だからだ。現在の北東アジアで党が国家を支配しているのは北朝鮮と中国だけである。中国国民党はかつて国家を支配していたが、現在は違う。日本共産党は国家を支配した経験がない。

 「党が国家を支配する」というのは、一党独裁制の特徴だ。ソ連など、かつての社会主義陣営では一般的な国家形態であった。一党独裁制は、社会主義革命の段階におけるプロレタリア独裁を具現化するものだったのである。一党独裁制では、競合政党が存在できないので、選挙による政権交代の可能性は皆無。そのために、国家組織(政府組織)には支配政党の党員かそれに従う政治家しか入れない。議会はあっても、党が提出した法案に無条件に賛成することが議員の仕事になる。したがって、法案審議の時間は省かれるので、議会の会期はごく短い。北朝鮮の場合、最近は多くが1年に1日だけである。だから議員は、普段は他の仕事をしている。

 一党独裁制の下では、党が決定した法案が、審議もなくほとんど満場一致で採択されるため、国家の法律よりも、党の命令がより重要になる。これは人々の社会生活に染みついている。一党独裁制国家に住んでいる人たちは、法律を守ることに神経をとがらさなくても、党の命令には神経をとがらす。たとえ法律が「赤信号は止まれ」と定めていても、党が赤信号を渡れと命令すれば、そちらを実行する。このように一党独裁制は社会のルールにも影響を与えることになる。

 北朝鮮と中国は、一党独裁制の国家であるためハイレベルでの意思疎通がしやすい面はあるだろう。その意味で、中国が北朝鮮の問題に介入することは、必然的な問題であったのかもしれない。もちろん歴史的に見れば、中朝関係は順風満帆からは程遠い。両国は何度も深刻ないがみ合いをしてきた。今回の習近平の訪朝が14年ぶりの中国最高指導者の訪朝であることを思い起こせば、それを理解できるであろう。ただし、双方ともに、一党独裁制であるために、党外交による修復も可能であることから、急速に関係回復することもあり得るのである。

(敬称略)