戒律が禁止しても現実は…

 ちなみに、同性愛に対する激しい嫌悪は、イスラムの多数派であるスンナ派(以下、スンニ派)と少数派であるシーア派の間で共通している。今日、両派は何かと対立することが多いのだが。さらに言えば、この嫌悪はイスラムに固有のものですらない。アラビア語で「男色」を示す「リワート」は、「ルート」すなわち旧約聖書の「ロト」から派生したとされる。ここから分かるとおり、中東に起源を持つセム系一神教(ユダヤ教からキリスト教、イスラムに至る)は、すべからく反同性愛の傾向を有する。

 なお、性同一性障害については、サウジアラビアやイランなど、シャリーア(イスラム法)の影響が強い国でも、その存在を認めており、セラピーや性別適合手術を受けることを合法だとしている。しかし、これは逆に言えば、性別適合手術を受けない状態で、生まれながらの性とは異なる行動(例えば異性装=男装、女装)を取るのは違法だということになる。

 誤解を恐れず、至極単純化して言えば、イスラムでは神が人間を男性と女性に創造したと考えられており、その「間」やその「外」は認められない。今日、ムスリムが多数を占める国でもLGBTQを合法とする国はある。だが、たとえ違法ではなくとも、LGBTQではない人たちの多くがLGBTQを異常であり、病気だとみなしているのは否定できない。

 当たり前だが、このように宗教が戒律の上で同性愛を禁止したからといって、中東に同性愛者、あるいはトランスジェンダー(体の性と心の性が一致しない人)、クロスドレッサー(異性装者)がいなかったわけではない。

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