ISや反イラン諸国も“候補”
また、今回の事件に関する報道ではあまり取り上げられていないが、アルカイダや過激派組織「イスラム国」(IS)などテロ組織犯人説も否定できない。2010年にペルシャ湾で日本の商船三井のタンカー、エムスター号が攻撃される事件が発生したときには、アルカイダのアブダッラー・アッザーム部隊なる組織が怪しげな犯行声明を出している。
ISは、ペルシャ湾に面したクウェートやサウジ東部州だけでなく、イラン国内でも大規模なテロ事件を起こしているので、反米ということを含めれば、動機はたっぷりある。また、イラクとシリアという拠点を失ったことを考慮すれば、ペルシャ湾で戦争を起こし、新たなジハードの場をつくるという思惑も想像できる。
一方、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)といったアラブ諸国、あるいはイスラエルが、イランの犯行のように見せかけたという説も考えられる。イランと敵対するこれらの国には、米国がイランを攻撃して、あわよくばイスラム共和国体制を崩壊させてくれればと考える勢力が存在するのはまちがいない。
また、緊張で一気に原油価格が上昇した。制裁下にあるイランは石油を売れないので、これまでイランから石油を買っていた国が、自分たちの国から石油を買ってくれれば、二重にお得という期待もあろう。ただし、石油価格は事件当初こそ急騰したものの、その後は上がったり、下がったりである。ドナルド・トランプ米大統領も、再選のことを考えれば、原油価格の高騰は避けたいところだろう。トランプ頼みの反イラン諸国が原油価格高騰を狙ったとは考えづらい。
日本のタンカーだから狙われたのか?
安倍首相とハメネイ師が会談したまさにその日にタンカー攻撃が発生したことで、多くの日本のメディアが事件と安倍首相の訪問に何らかの関係があるのではないかと論評した。タイミング的には、可能性は十分ある。何しろ世界中のメディアがイランに注目していたのだから。だが、仮にイランが犯人だとすれば、そしてイランが何らかのかたちで日本の役割に期待をしているとするならば、そんなタイミングで事件を起こすだろうか。
イラン批判の急先鋒(せんぽう)であるサウジアラビアのムハンマド皇太子は、イラン犯人説を唱えたうえで、「イラン現体制は、日本の首相が客人としてテヘランにいることを尊重しなかった。彼が(イランに)いるあいだに彼の努力に対し2隻のタンカーを攻撃することで応えてしまったのだ。タンカーのうち1隻は日本のものであるのに」と述べている。
そもそも、イランが、本当に日本の調停を嫌っていたなら、最高指導者が首相と会うことすらしなかったと思うが、どうだろう。
他方、わざわざ日本のタンカーを狙ったのかという点については、疑問が多い。ペルシャ湾地域における船舶攻撃は5月にも類似の事件が発生していた。そのときは日本の船舶が攻撃されたわけではない。そもそも今回の事件では、日本企業が運航するタンカーだけでなく、ノルウェー企業が運航する台湾向けのタンカーも攻撃を受けている。ノルウェーの船舶は5月の事件でも攻撃を受けており、狙われたとすれば、ノルウェーの可能性が一番大きいはずだが、それについてほとんど触れられていない。
さて、問題はこのあとだ。事実関係の解明が不十分な現状では、未来予測は不可能だ。悪化するシナリオでは、「武力衝突直前のところまで緊張が高まるが、ぎりぎりそこで踏みとどまる」というところから「全面戦争」までさまざまな段階を想定できる。
米国のシンクタンク、中東研究所のポール・サーレム所長は、可能性は低いとしつつも、ポジティブなシナリオとして、関係各国が何らかの妥協点を見つけ、事態が少し落ち着く可能性、そしてトランプ大統領が突然、イランとの対話を開始する可能性を指摘している。たしかに、この紛争の主要アクターの大半は戦争を望んでいるわけではない(と思う)ので、土壇場に追い詰められれば、妥協点がみつかるかもしれない。
個人的には、この段階で、ふたたび日本の出番がありうると思うのだが、いかがだろうか。トランプ大統領は、あれほどボロカスにいっていた北朝鮮といきなり対話をはじめた。イランとも同様の「ディール」をする可能性はゼロではないかもしれない。
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